十千しゃなお 電子書籍 オススメ

電子書籍。その中でも素人さんの作品を紹介するサイト。だったはずが最近は全く紹介出来ていないサイト

九月十八日 晴れ

朝。
ゴミ出しを終えて、部屋に戻ると、
「おはよー。せんせもいるー?」
お姉さんが台所でコーヒーをいれていた。私の分も用意してくれるなんて、珍しい。
「いやー、朝じゃんねー?」
小さく口を開けて、お姉さんはあくび。珍しい行動を目にすると、何か裏があるのでは?と勘繰ってしまいがちだが、お姉さんのことだから気紛れなのだろう。というわけで、何の警戒もせずにコーヒーを口に。コーヒーというよりは砂糖水に近かった。
「ねー、せんせ?」
「はい?」
「せんせってさー? 好きな人はいるのー?」
「……中学生みたいなことを聞くね?」
ほほえましい質問。頬が緩んでしまった。修学旅行の夜にそんな話をして盛り上がった覚えがある。あれは確か高校生のときだったかもしれない。
好きな人。改めて考えると……。
「……いるよ」
「へー? 私以外にー?」
「お姉さんは入ってないかな」
「素直じゃんねー」
けらけらと笑い、一体どんな人なのかと、お姉さんは聞いてきた。
「んー……再発見させてくれる人かな」
「再発見ー?」
「そう。例えば……私、ビールって飲まないでしょ?」
「あー、言われてみればそうかもー」
二人で飲むことは多々あるけれど、お姉さんは私がビールを飲む姿を見たこともないはずだ。もっぱらウイスキーかブランデー。最近では日本酒も選択肢に入る。
「そうなんだけど、その子があまりにもビールを美味しそうに飲むものだから、この間十年ぶりくらいに飲んでみたんだよね」
「どうだったー?」
「悪くなかったよね。ファーストチョイスではないけど、ビールも悪くないって素直に思うよ」
もし、あの子がビールを飲んでいなかったら。私はもう二度とビールを飲んでいなかったかもしれない。大袈裟ではなく、私の中で論外だったはずのものだった。
「ふーん。けどさー? 私も自信あったじゃんねー? 美味しそうにビール飲むの」
仰る通り。お姉さんはなんでも美味しそうに飲むし、食べる。それが例え口に合わなかったとしても、どこか楽しげに見えるくらいに。
そんなお姉さんの姿を見ても、ビールを飲もうとこれまで思わなかったのは、きっと。
「……お姉さんは見ていたい人なんだよ、きっと。何かを思うより」
「熱視線?」
「ぼんやりと」
「直視しすぎると焼けちゃうもんねー」
いつものようにけらけら笑うお姉さんを見ていると、いつも柔らかい気持ちになれた。そんな人は他に心当たりがないので、再発見させてくれるあの子のように、お姉さんもまた私の中で特別なのだろうか。

九月十七日 晴れ

夜十一時過ぎ。冬に向けて、編み物をしていると、
「おはよー……」
眠そうなお姉さんがやってきた。寝癖がついているあたり、眠気の限界なのではなく、起き抜けなのだろう。
「いやー、流石にパトカーがうるさかったじゃんねー?」
言われてみれば。確かに、今日は朝からサイレンの音が鳴り響いていた。
「また殺されたんだってさー?」
「……誰が?」
「花さん」
「ああ、まただね」
殺された、と聞いた瞬間はひやっとしたが、誰なのかを聞いてホッとした。花さんは今月だけで四回は殺されていた。
「警察もさー? 通報元が花さんて聞いたらさー? サイレン鳴らさないでよくなーい?」
「彼らはアンドロイドだから。そこら辺の機転がきかないのは仕方ないよ」
おかげで、私の住む町では、数年前から花さん以外殺人事件の被害者は出ていない。
「花さんも花さんだよねー? そんなに死にたいんなら、殺されるんじゃなくて、自分でよくなーい?」
「違うみたいだよ? 花さんは死にたくないんだって。殺されたいだけで」
「ふーん?」
納得は出来ていないように、お姉さんの生返事。推測ではあるけれど、この町でもっとも美しい花さんは、誰かに悪意を向けられることを望んではいるが、それは自らではないのだろう。
不滅の花。
花さんの美しさを称え、世間の人はそう呼んだりもするが、どこまでも花であることを望む彼女からすれば、枯れない花は花ではないということなのかもしれない。
「行ってみるー?」
「花さんのお店?」
「うん。聞いてみたいじゃんかー?」
今日はどんな風に殺されたのか。死んだらおしまいの私たちからすれば、興味を抱かずにはいられない。
普通のお客さんであれば、花さんを指名したら、何時間待ちになるかわからない。が、幸運なことに、私たちには花さんと個人的な付き合いがあった。最近、お酒飲んでいなかったし、たまには悪くないのかもしれない。


※ワイン三本目飲みながらなので、誤字はひどいかも。



九月十六日 晴れ

静かな午後。私が本を読んでいると、壁の向こうから話しかけられた。
「せんせ。今日のご飯はー?」
タダ飯食らいからの質問。時計を見てみれば、もう午後五時近かったので、そろそろ夕飯のことを考えなければならなかった。
「リクエストは?」
「茄子の揚げびたしって美味しいじゃんねー?」
リクエストを聞かれたときに、気を使ってか、何でもいい、という人がよくいる。正直な話、私ははっきりと言ってもらえるほうが嬉しかった。考えるのが面倒だから、意見を求めているので。それが例え揚げものだったとしてもだ。
「お姉さんも行く?」
ほとんど冷蔵庫は空なので、スーパーに行かなければならない。
「えー? んー、行こっかなー」
少しだけ面倒くさそうな声を上げたが、恐らく、私と同じようにお姉さんも今日はほとんど外に出ていないのだろう。秋なので既に陰り始めているものの、それでも日光を浴びるのは悪くない。


※やろうと思っていたことをまた先延ばしに。

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