十千しゃなお 電子書籍 オススメ

電子書籍。その中でも素人さんの作品を紹介するサイト。だったはずが最近は全く紹介出来ていないサイト

2014年03月

そんなに久しぶりではないですが、お久しぶりです。十千しゃなおです。
一週間くらいかかるかなと思っていたのですが、無事三日くらいで帰厩出来たのでご報告致します。まぁ、一泊三日のわりと弾丸ツアーだったのですけれども。けれども。 
拍子抜けって感じでしょうかね?あれだけ何かありそうなお知らせブログ書いたにも関わらずですから。十千自身意外で拍子抜けで驚いております。
まぁ、何にせよ。戻ってこられたのは嬉しいですね。 相模原に。ネットに。KDPに。
これからはもっとガツガツやっていく予定です。
しかし、それにしても戻ってくるの早すぎで、何かブログのアクセス増やすためだけに(あんなこと)書いたように思えて、感じ悪いですね。ちょっと。
だから、もう言いません。自分で筆を止めようと思うことはもとよりないですし、止めようとする誰かも、もういませんから。 
 
えー、というわけなんですけれども、夜行バスで帰ってきたばかりなので、このくらいでお開き。
「は? どういう家庭の事情があったのか言えよ」とお思いの方、大勢いらっしゃるでしょう。十千もそう思います。
でも、眠気には勝てないのでございますよ。
 それに、せっかくKDPっていう誰でも好きなことを気軽に出版出来る場に戻ってきたんです。ネタに使った方が美味しいと思いませんか?それを無料キャンペーンで配ったりしようかななんて。

いずれにせよ、来年を電子書籍元年じゃなくすために頑張りたいですね。 


簡単に言うと就活に失敗したのです。 

過去分はこちらから。
『SSクラ部へようこそ』① 『SSクラ部へようこそ』② 『SSクラ部へようこそ』③
『SSクラ部へようこそ』④ 『SSクラ部へようこそ』⑤ 『SSクラ部へようこそ』⑥ 
『SSクラ部へようこそ』⑦ 『SSクラ部へようこそ』⑧ 『SSクラ部へようこそ』⑨
『SSクラ部へようこそ』⑩ 『SSクラ部へようこそ』⑪ 『SSクラ部へようこそ』⑫
『SSクラ部へようこそ』⑬ 『SSクラ部へようこそ』⑭ 『SSクラ部へようこそ』⑮ 
『SSクラ部へようこそ』⑯ 『SSクラ部へようこそ』⑰ 『SSクラ部へようこそ』⑱ 
『SSクラ部へようこそ』⑲ 『SSクラ部へようこそ』⑳ 『SSクラ部へようこそ』㉑
『SSクラ部へようこそ』㉒ 『SSクラ部へようこそ』㉓ 『SSクラ部へようこそ』㉔
『SSクラ部へようこそ』㉕

・先代リン①

 ある日の放課後。
「あれ? 鍵が開いている……?」
 部室のドアノブを回すと簡単にドアは開いてしまった。いつもなら一番早くに来る僕が鍵を開けることになっているのだけど。既に鍵は開いている。
 ……おかしいな。
 部室の鍵を持っているのは去年からいるクラ部メンバーだけ。僕。ハルナさん。レミィ。リンさんを除く部員全員が鍵を持っているけど、レミィは日直の仕事で遅くなると聞いていたし、廊下で遭遇したハルナさんはトイレに寄ってから行くと言っていた。
 つまり、鍵が開いてるはずはない。
 施錠を忘れた? 昨日は僕が施錠当番だったからそれはないと思いたい。
 他に可能性があるとしたらあの人が来た場合だけだ。
 懐かしい人の予感を感じながら部室に入る。
「おいっす。久しぶりだね、アキラ」
 すると、懐かしい人が僕に向かって手を振った。
「リンさん。お久しぶりです」
 丁寧に頭を下げる。リンさん。といっても、目の前にいるのはお団子頭の一年生ではない。髪は今のリンさんよりずっと長く、装飾は何もない。ソファーに座りくつろいでいるのは、三月に卒業したばかりの先代リンさんだった。
「今日は何のご用でクラブに?」
「何ってアキラが呼んだんじゃん?」
「僕がですか……?」
 久しぶりに会えるのは嬉しいけど……身に覚えはまったくない。
「ああ。昨日ハルナからメールがあったんだ。クラブの制服を作ったから見に来て欲しいとアキラが言ってるって」
「微塵も覚えはないですね……」
「……本当に?」
「本当です」
 疑いの言葉に懐かしさを感じる。僕もよく使う、本当に? という問いは先代リンさんから移ってしまったものだった。
「多分、ハルナさんが僕を口実にしたんでしょう」
「……そっか。まぁ私も薄々勘づいてはいたけど。けど、こんなまどろっこしいことしないで、普通にメールしてくればいいのに」
「恥ずかしかったんじゃないでしょうか? 僕にはわかりません」
 どんな気持ちでメールを送ったのかはわからないけど、ハルナさんと先代のリンさんは、僕とレミィのように同期であり親友。きっと何か想うことがあったのだろう。
「それでは。僕は着替えるので、少し失礼しますね」
「あいあい。こっちも適当にやってる」
 一礼をして更衣スペースに向かい、慣れた手つきで着替えを済ます。再び先代リンさんの前に立つ僕の姿は、いつものワイシャツにズボン、そしてベスト。
「あれ? クラブの制服を作ったんじゃなかったの? それでもアキラは男装?」
「普段はそうですね。僕がクラブの制服を着るのは何かのイベントのときだけです」
 業者に発注した衣装が届いたのは昨日のことだった。
 昨日届いたばかりの衣装だったので着たいという気持ちは当然ある。だけど、気づいたときにはいつものベストに手を伸ばしていた。まぁ、理由がないわけではないですけど。
「……それはハルナの命令?」
「それもあります。僕が制服を着ると自分とキャラが被ってしまうと仰っていました」
「どこがだよ」
 全く共通点を見いだせず、呆れ混じりに僕たちは笑った。
 本当にどこが被るのか教えていただきたい。自分では対極に位置すると思っているので。レミィの方がまだハルナさんに近いような。
「……どうかしましたか?」
 気づくと全身をまじまじと見られていた。去年もクラ部ではこの姿だったので、目に珍しいものではないというのに。
 何かおかしなところでもあるのかな?
「いや……何か男前になったね、アキラ」
 微笑ましそうにしみじみ。先代リンさんは目を細める。
 いつもなら、男ではない、と引っかかるものを感じるけど、何か嬉しいというか、恥ずかしいというか、こそばゆいというか。面と向かって褒められるのはちょっと。
 しばらく二人で話の花を咲かせていると、
「こんにちは……って、あれ? アキラ先輩、この方はどなたですか? お客さん?」
 もう一人の、お団子頭のリンさんがやってきた。先代と当代。新旧リンさんの初顔合わせである。
 先代リンさんが、「へー、あの子が」と頷く中、事情がわからない当代リンさんはどこか助けを求めるように僕のことを見ていた。
「リンさん、こちらが先代のリンさんです」
「どーも。よろしくね」
 ソファーから立ち上がり、先代リンさんがカジュアルに頭を下げる。
 すると、
「こ、この方が!? あの先代リンさんですか……!?」
 当代リンさんはおののくように仰け反った。目は大きく見開かれ、目の前の当代リンさんを捕らえて放さなかった。
「おいおい、アキラー。いったい何を吹き込んだんだよー?」
 やめてくれよー、と、先代リンさんは照れ笑い。どうやら噂話というのは、例え好意的なものでもこそばゆいものらしい。
「初めまして、二十六代目リンです……!」
「あいあい、よろしく」
 恐る恐る当代リンさんが右手を差し出す。先代リンさんはレミィにも負けない満点の笑顔で握手を交わした。
 何だか微笑ましい。ちょっと羨ましいかな、なんて。僕は先代アキラさんに会ったことがないので。
「あの、一つ聞いてもいいですか……?」
「何でもどーぞ」
 先代が快諾。すると、当代リンさんは深く息を吸い込み、大きく吐いた。その目にはキラキラとした期待と灰色の不安がせめぎ合っていた。
「わんこ蕎麦を耳から二十杯食べたって本当なんですか……?」
「え?」
「自転車で高速道路を逆走したというのは?」
「は? ……おいアキラ! ほんとに何を吹き込んだんだよ!?」
「僕ではありません。僕では」
 先代リンさんに激しく身体を揺さぶられる。誰が話したかなんて決まってるじゃないですか。
 卒業し、学校を去っても。七星の英雄伝説は(主にハルナさんによって)語り継がれていた。

過去分はこちらから。
『SSクラ部へようこそ』① 『SSクラ部へようこそ』② 『SSクラ部へようこそ』③
『SSクラ部へようこそ』④ 『SSクラ部へようこそ』⑤ 『SSクラ部へようこそ』⑥ 
『SSクラ部へようこそ』⑦ 『SSクラ部へようこそ』⑧ 『SSクラ部へようこそ』⑨
『SSクラ部へようこそ』⑩ 『SSクラ部へようこそ』⑪ 『SSクラ部へようこそ』⑫
『SSクラ部へようこそ』⑬ 『SSクラ部へようこそ』⑭ 『SSクラ部へようこそ』⑮ 
『SSクラ部へようこそ』⑯ 『SSクラ部へようこそ』⑰ 『SSクラ部へようこそ』⑱ 
『SSクラ部へようこそ』⑲ 『SSクラ部へようこそ』⑳ 『SSクラ部へようこそ』㉑
『SSクラ部へようこそ』㉒ 『SSクラ部へようこそ』㉓ 『SSクラ部へようこそ』㉔

・共通点

 ある日の放課後。
「む? レミィとリンはまだ来ていないのか?」
 開店の準備をしていると、ハルナさんがコソコソと部室にやってきた。何度注意しても、大きな音を立てて部室のドアを開けるハルナさんがコソコソと。
「二人には買い出しに行ってもらっています」
「……そうか」
 どこかホッとしたかのように頷く。傍若無人で尊大なハルナさんらしい態度かと言ったら、否だ。
「……なぁ、アキラ」
「はい」
「ちょっと話がある」
「……はい? 具合でも悪いのでしょうか?」
 いつになく静かで、ハルナさんは真面目な顔をしていた。拾い食いでもしたのかな……?
「茶化すな。お前にしか話せぬ話だ」
「僕にしか……?」
「うむ」
 静かに頷くハルナさんを見て、何となく真面目な話だとわかってしまったような。これから何を話すかはわからないけど、こんなに真剣な顔をしたハルナさんを見るのは初めてだ。
「……わかりました。何でしょう?」
 それなりに覚悟を決めて尋ねる。
「実はな」
「実は?」
 深刻な面持ちに息を呑む。それも無意識に。
「……わたしは吸血鬼かもしれぬ」
「……はい?」
 今、何て言ったんでしょうかね? 自分の耳を信じたくない。
「だから吸血鬼かもしれぬと言うておろう!」
 突拍子がないことを堂々と。なるほど、心配はいらないみたいだ。今日もハルナさんは元気です。
「この話、他の方にも話したんでしょうか?」
「いや、お前が初めてだ」
「……それはよかったです」
「騒ぎになっては困るからな」
「クラ部全体が白い目で見られるので絶対に止めて下さい」
 高校生にもなって自分が吸血鬼だなんて告白をしたら。危ない人だと思われるか、おかしい人だと思われるかの二択だ。ハルナさんが突拍子のない人だというのは、学内はおろか学外でも有名だけど、これ以上クラ部に風評被害を与えるのは勘弁願いたい。
「……チッ。どうせまた適当なことを言っていると思っているのだな?」
「どうせまた適当なことを言っていると思っています」
 オブラートに包む必要はない。一瞬でも心配してしまったことがほんのり悔しかった。
「まったく部長を何だと思っているんだ……だが、アキラが信じられぬも無理もない。わたしも自分が吸血鬼だと気づいたのは昨日のことだからな」
「はぁ……」
 生返事も生返事。火が通っていないどころか通そうとすらしない。ハルナさんが何をしたいのかわかってしまい、脱力せずにはいられなかった。
「つまり、昨日何があったのか聞いて欲しいということでしょうか?」
「聞きたいだろう?」
「……気は進まないですけどね」
「そうか! 聞きたいか! 仕方のない奴め!」
 どう都合よく解釈しているのかわかりませんけど。ハルナさんは嬉しそうに語り始めてしまった。
「夕方の六時くらいか、本厚木に私用があってな。電車に乗っていたのだ」
「そのくらいの時間だとかなり混んだでしょうね」
 小田急線の電車は、夕方になると新宿の方から郊外の自宅に帰るサラリーマンで満員になる。下北沢の辺りをピークに少しずつ下車していくが、それでも暑苦しいことに変わりはない。
「まさに。座席に座ることなどままならぬ。おまけにわたしはあまり背丈に優れぬからな。吊革につかまることなど、とても」
「大丈夫だったんですか?」
「ああ、扉近くの鉄棒にしがみついていなしていた。だが、途中の駅で、明らかに満員なのに乗り込んでくる勤め人がいてな。もう本当に密着状態。押しくら饅頭押されて泣くなとは言うが、あれは泣く」
「たまに、というかよくあることですよね。仕方のないことでしょう」
「わたしもそう思い、本厚木まで我慢するつもりだったのだが……耐えきれず、途中の駅で降りてしまった」
「そんなに圧迫されていたんですか?」
「いや、それ以上に吐息がな」
「吐息?」
 満員電車では乗客の吐息が顔にかかることがままある。あれは確かに不愉快……だけど、話の方向がイマイチわからない。
「ああ。餃子を食べたのか知らぬが、やたらとニンニク臭くてな。勤め人にブレスケアを義務づけるのは酷だが、流石に限度がある。そもそも、わたしはニンニクが嫌いだしな」
 そう言うとハルナさんは、
「つまり、これがわたしが吸血鬼である証拠だ」
 腕を組んで自信たっぷりにまとめた。
 ……ん?
「えーと……何が、でしょうか?」
「ニンニクだ、ニンニク! ニンニクが嫌いと言えば吸血鬼であろう!」
 ハルナさんは間違いないと断言するけど、一体どんな屁理屈を用意していたのだろうと思っていただけに、拍子抜けしないと言ったら嘘になる。
「……ニンニクが嫌いと言うだけでは、証拠として弱すぎます」
「何故だ!?」
「僕のクラスにもニンニクが嫌いな子はいますからね。もちろん、人間ですけど」
 まぁ、薄々察していた。ハルナさんが昨日テレビでやっていた、吸血鬼ものの映画に影響を受けているだけだということは。
「むむむむ……だ、だが、わたしも週末は吸血鬼のように日中寝て過ごすぞ?」
「それはだらしないだけです」
「むむむむ……! し、しかし、木の杭で心臓を貫かれたら、わたしも死ぬような気がするぞ?」
「普通の人なら誰でも死んでしまうと思いますよ」

連載ではないブログを書くのはだいぶかなりとても久方ぶりになりますね。十千しゃなおです。
えー、お知らせということなのですが、あまりいいお知らせではないです。
端的に言うと、家庭の事情で呼び出され、しばらくパソコンを使うことが出来ない、という話です。まぁ、十千が一方的に悪いのですが。
なので、明日から更新されるブログは予約投稿されたもので、誤字脱字などの修正はすぐに行うことが出来ません。ご了承ください。
いつから復帰出来るかはわかりません。また、ネットに復帰することが出来ても、新たに書くことが許されるかどうかわかりません。
とりあえず『SSクラ部へようこそ』は最終分まで予約投稿しているので、途中で終わるということはないですが、その先は未定です。新しいの書けなかったから『じゃんけんしようよ』でも垂れ流そうかな。一日一万字でもひと月持ちますし。
いずれにせよ、せっかく始めたばかりの連載ですし……まだ三ヶ月くらいですよ? このまま終わらせるのは忍びない。なので、何らかの形で連載は継続する予定です。多分ストックから出していく形になるでしょうけど。
全文掲載出来るストックは……
・じゃんけんしようよ(本編&短編)
くらいでしょうかねぇ。ラジオのやつは困ったことにまだ途中なんですよねぇ。

いずれにせよ。いずれにせよ、ですよ。
何度目かわからない電子書籍元年。
不本意な形でリタイヤ出来るほど十千は物分かりがよろしくありません。
どのような形になるかはわかりませんが、皆様に応援していただけると嬉しいですねー。 

過去分はこちらから。
『SSクラ部へようこそ』① 『SSクラ部へようこそ』② 『SSクラ部へようこそ』③
『SSクラ部へようこそ』④ 『SSクラ部へようこそ』⑤ 『SSクラ部へようこそ』⑥ 
『SSクラ部へようこそ』⑦ 『SSクラ部へようこそ』⑧ 『SSクラ部へようこそ』⑨
『SSクラ部へようこそ』⑩ 『SSクラ部へようこそ』⑪ 『SSクラ部へようこそ』⑫
『SSクラ部へようこそ』⑬ 『SSクラ部へようこそ』⑭ 『SSクラ部へようこそ』⑮ 
『SSクラ部へようこそ』⑯ 『SSクラ部へようこそ』⑰ 『SSクラ部へようこそ』⑱ 
『SSクラ部へようこそ』⑲ 『SSクラ部へようこそ』⑳ 『SSクラ部へようこそ』㉑
『SSクラ部へようこそ』㉒ 『SSクラ部へようこそ』㉓


・三分の一の純粋な天然

 ある日の放課後。
「分数の足し算て難しいよな」
 仰向けに寝そべってスマホを弄るハルナさんの言葉で、クラ部に衝撃が走った。
「……え? ハルナさん、まさかわからないんですか……?」
「洒落にならないですし……小学生レベルですし」
「留年したのも当然と言えるネー……」
 哀れみの視線が一斉にハルナさんへ向けられる。だって、ねぇ。
「たわけが! わたしだって分数の足し算くらい計算出来る! そうではなく、後に習う分数のかけ算割り算に比べて難易度が高くないかという話だ」
 頬を赤く染めながら力説する。ハルナさんの話はわからないでもない。それなら分数の引き算も同じですけど。
「何故通分などせねばならぬ。しち面倒くさい」
「通分しないと計算出来ないですから、しょうがないことですし」
 三年生に一年生が教えを説く。正確には実質四年生にこの間まで中学生だった一年生が。
「例えば、二等分にしたケーキと三等分にしたケーキでは一片の大きさが違うじゃないですか」
「む……それは理解しているのだが。何かな」
 わかりやすいようにケーキで例えたリンさんの説明。頷いてはいるものの、ハルナさんは納得のいかないご様子だった。反対に、人に何かを教えることが嬉しいのか、リンさんは鼻高々なご様子。
 そんな光景を眺めながら、
「……レミィ」
「はいナ?」
 隣に座るレミィに耳打ちをする。
「ふんふん、それで? ……Oh! それはいいアイデアネー!」
 僕の言葉を完璧に理解してくれたのか、レミィは手を叩いて喜びを表現した。流石に付き合いは長い。
 指示通りのものをレミィが用意したのを見て、
「リンさんにレミィから問題です」
 未だ分数の計算を教えているリンさんに声をかける。
「こっちの赤いお皿には二つのタルトと一つのショートケーキがあるネー。三つのケーキの内一つがショートケーキ、つまり三分が一ヨ」
 そう言って、レミィは縁の赤いお皿をリンさんの前にあるテーブルに置く。言葉通り、お盆の上には二つのフルーツタルトと一つのショートケーキがあった。
「……はい」
「次にこっちの青いお皿にはタルトとショートケーキが一つずつネー。つまりショートケーキは二分が一ヨ」
 同じように縁の青いお皿をテーブルの上に置く。
「……はい。それが何か?」
 まだ状況が把握しきれていないリンさんが尋ねると、レミィはお皿を二つともテーブルの下に隠してしまった。
「じゃ、問題ヨー。赤いお皿の三分の一がショートケーキ、青いお皿の二分の一がショートケーキ。合わせてショートケーキはいくつあるネー?」
 レミィが満面の笑みで尋ねる。リンさんは嫌味なく鼻で笑った。
「そんなの簡単ですし。分母を三と二の最小公倍数である六に揃える為に、三分の一に二をかけて六分の二。二分の一に三をかけて六分の三。あとは分子を足すだけなので六分の五。つまり、ショートケーキは五つですし」
 リンさんが自信満々に答え、僕とレミィはニヤリと白い歯を見せながら顔を見合わせる。
 計算通り。
 答え合わせにレミィがテーブルの下から二枚のお皿を出す。
 そこにはケーキが五つ。
 ショートケーキは二つしか乗っていなかった。
 自分の答えとまるで違うので、当然リンさんの目は丸くなる。
「あれ!? ショートケーキが二つしかないですし!」
「ケーキの総数も五個で一つ足りませんね」
 狐につままれたかのように狼狽える。そもそも計算式が間違っていることにリンさんは気づいていないみたいだ。ケーキを三等分にした内の一つと、三つのケーキの内の一つでは意味がまるで違う。
「おいおい、リンは分数の足し算も出来ぬのか」
 リンさんが間違えたのを嬉しそうに笑うが、多分ハルナさんもどうしてこうなったのかわかっていない。
「……ハルナ先輩が食べちゃったんですね! 最低ですし!」
「何故そうなる!? というか何故わたしのケーキが五個しかない!?」
 慌てふためく二人をよそに。僕とレミィはしてやったりとハイタッチを交わした。
 ……いつからハルナさんのケーキに?

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