十千しゃなお 電子書籍 オススメ

電子書籍。その中でも素人さんの作品を紹介するサイト。だったはずが最近は全く紹介出来ていないサイト

2014年05月

ここ何日か、『落語り帳 春寄席』がぽつぽつDLされているみたいです。
恐らく、先週『落語り帳~楽日~』を無料キャンペーンにした効果でしょうね。最終巻を読んでから買うって言うと、ちょっと面白く聞こえますが。
それで、ですよ。 そこまでは予想の範疇。
意外だったのは、バラ売りの『落語り帳』『落語り帳~二つ目~』『落語り帳~真打ち~』ではなく、まとめ売りの『落語り帳 春寄席』のDLがほとんどだということですね。
いや、 「そりゃまとめ版の方が安いんだから、そっち買うに決まってんだろ」って思われるかもしれませんが、実際そうでもなかったんですよね。いつもバラとまとめが同じくらいDLされてて。
これはあれなんでしょうかね?内容紹介の文章をみなさんちゃんと読んでくださるようになったということなんでしょうかね?

よくわからないですが、 ここ二日くらい暑くて、フェレットの為にエアコンをつけている十千しゃなおでした。


色々と遅くなってしまいましたが、色々と終わったので色々書きます。

まず。
『落語り帳~楽日~』の無料キャンペーンが無事に終わりました。参加いただいた方には心からの感謝を申し上げます。
当初の予定より多くの方にDLしていただいたのですが、これ、あれなんですね、今気づいたんですが、ブログやってますよーとか、いつも載せている情報載せ忘れてましたね。やっちまったー。

続いて。
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』のブログ連載分が終わりました。
今回はストーリー性があるせいかちょっと長くなっちゃいましたね。前回の倍近い量です。
次やるときは前回のようにもっと中身をなくしてやりたいです!
ラジオのいいところって聞きながら別のことが出来る薄っぺらさだと思うんですよねー。
こちらは加筆修正をして電子書籍かいたしますが、準備が全然出来ていないので来週中に出れば御の字かもしれません。

さて、次の連載ですが、
『SSクラ部へようこそ』の続きになります。毎日連載していたやつですね。
ですが、今回は毎日ではなく、月・水・金・土の週四連載になります。
理由は毎日連載をやってしまうと普通のブログを書きづらいと言うことと、読んでくださる方も毎日連載だと追いづらいのではないかと考えたからです。

今週の土曜、あるいは来週の月曜日からスタートですので、その際はよしなによしなに。
 

bchxbxc



























前作『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?』はこちらから
うぇぶれんさい一覧
過去分はこちらから。
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』①
 
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』②
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』③
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』④
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑤
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑥
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑦
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑧
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑨
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑩
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑪
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑫
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑬
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑭

『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑮
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑯
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑰


・放送舞台裏


 加藤さんや福永さんが入ってきて、急遽慌ただしくなった録音ブース。もちろん、誰も逃げられないように、数人のスタッフが外からドアを押さえている。
 それは己己己さんの嘘が嘘だという証拠だ。
「どうしてドッキリだなんて嘘をついたんです?」
「取り返しがつかねーだろ、ああでもしなきゃ。……何か理由があるのかもしれないしさ」
 チラリと己己己さんが俯くデコさんのこと見やる。
 ……甘い考えすぎますね。
 何か理由があったからといって、彼女が盗みを働いたという事実は変わりません。
「……さて、どういうことか説明してもらおうか。デコ」
 俯いて涙を流すデコさんは所々嘔吐きながら、私たちに彼女の理由を教えてくれた。
 端的に言うとこう。
 病に伏した母親に仕送りするお金が欲しかった。
 なかなかバイトが見つからなかっただとか、入院するのにお金が必要だっただとか、デコさんは懺悔をしていたが、私には関係のない話。
「随分と自分勝手な理由ですね」
 思ったことを口にしてから、何を言っているんだろうと我に返る。
 私は何も盗まれていない。なので、私には関係のない話だというのに。
「……悪いけどさ、お金はあげるから小銭入れだけ返してくんないかな」
 そう言って、己己己さんはデコさんに微笑みかけた。
 この人は被害者なのに、何故こんなに柔らかい表情を出来るのだろう。
「この小銭入れさ、こいつから誕生日プレゼントにもらったやつなんだよ」
 デコさんがズボンのポケットから取り出し、己己己さんに渡した小銭入れを私はよく知っている。それは紛れもなく私が銀座のデパートで買った小銭入れだった。
「私もさ、この業界長いから売れない子とか沢山見てきたわけ。だから、あんたの辛さよくわかる。けどさ、他人のもんに手ぇ出しちゃだめだよ。何だかんだ人間関係で成り立ってる職場だしさ」
 今まで気にしたことはなかったけれど、もしかして、私が仕事を得ることで、仕事が何もなくなってしまった人もいたのだろうか……。
 だからといって、私が蹴落としたくて蹴落としているわけではないので、同情はしない。
 しかし、己己己さんの話を聞いて生まれたこの気持ちは何だろう。
 胸を締め付けられるような鈍い痛み。
 己己己さんの財布が盗まれたことによって沸き上がった頭に血が上るような感覚は何だろう。
 ……己己己さんはおかしな人です。
 大人なようで子供っぽいところもあり、物分かりがいいと思ったら我が儘で、怒りっぽいところもあるが我慢強く……端的に言えばよくわからない。
 同級生より眩しく見えるのは大人だからだと思っていた。
 しかし、大人たちでごった返したこのブースの中でも、私は無意識のうちに己己己さんを目で追っている。
「……これは?」
「やるよ。あんたに。くれてやる。けど、別に恵んでやるわけじゃない。あんたに投資するってこと」
 そう言うと、己己己さんは懐から取り出した何枚かのお札をデコさんに渡した。
「大丈夫。あんたは才能あるよ。こんなはした金すぐに稼げるようになる。あたしの耳は確かだからね」
 確かにデコさんに才能があるのは事実です。
 しかし、自分がされたことを水に流してお金を渡すなんて考えられない。私だったら迷うことなく警察に突き出している。
「いつか、もっと金が稼げるようになったら返しにきな。利子は安くしといてあげるからさ」
 渡されたお札を握りしめ泣くデコさんの頭を、己己己さんは犬をあやすかのように荒々しく撫でた。
「……甘いですね。MAXコーヒー並みに甘いです」
 まるで安っぽいテレビドラマのような光景に率直な感想を漏らすと、己己己さんは恥ずかしそうに「うるさい!」と言った。
 ……私は好きですけどね。MAXコーヒー。
「食べるものがなかったら家にきな。一人分増えたところでそう変わんないからさ。なぁ、清恵」
「私がいないときは碌な物が食べれないと思いますけどね」
 己己己さんは目玉焼きも作れない。何故かスクランブルエッグになってしまう。
 全く……作るのは私だというのに、勝手なことを。
 私の声を聞いて、何故かデコさんは雨に打たれる捨て犬のような、憐れみに溢れた視線を私に向けた。
「……勘違いしないでください。私はあなたには何も盗まれていないので、あなたが仕事で成功しようが、盗人として成功しようが興味はありません」
 そう、興味はない。
「……ですが、己己己さんにここまでしてもらうんです、もし己己己さんの名前に傷をつけるような真似をしたら承知はしません」
 私を見つめるデコさんに警告をしてから、またも自分の言っていることのおかしさに気づく。
 自分は関係ないと言っておきながら、何故警告をしているのだろう。
「それと、このスタジオにいるスタッフの皆さん。今回の盗難騒動については他言無用でお願い致します。回り回って己己己さんの責任問題になりかねないので。もし、週刊誌へのリーク、及び、業界内に噂話が流れるのを確認しましたら、ただでは済ませません。事務所の力で」
 またも口から勝手に言葉が出て行く。
 何で私は……。
 己己己さんのこととなると、ときに私は私の行動を説明出来なくなる。
 本当に理解出来ない。私に損得はないというのに。
 しかし。
 その理解の出来なさが心地よくもあった。
「さて、これで一件落着か。そろそろCM明けだしな」 
「いえ……まだ終わってません」
 そして、そんな己己己さんに言いたい言葉がある。
「は? え、何、どういうこと?」
「犯人は一人じゃないということです」
 私の声でまたもざわめき始める録音スタジオ。
「自分は知らないッス! ほんとッス! 自分の単独犯ッス!」
 デコさんが驚くのも無理はない。彼女は正真正銘の単独犯なのだ。
 疑心暗鬼な視線を周囲から受けながら、私は真っ直ぐに己己己さんと目を合わせ、手に持った小銭入れを指差した。
「己己己さん……その小銭入れは己己己さんへのプレゼントではありません。それはお母さんへの誕生日プレゼントです」
「え!?」
 静まりかえった室内に己己己さんの驚きが木霊する。
 私が北海道へイベントに行っている間になくなったものは、しっかりと己己己さんの手に握られていた。
「で、でも、あたしの誕生日にあたしんちのソファーに置いてあったし!」
 ああ、なるほど。己己己さんは自分の誕生日プレゼントだと勘違いしていたんですね。
「それはお母さんの誕生日が来る前に見つかってしまうのが嫌だったので、置かせていただいていただけです」
 それなのに、私からのプレゼントだと勘違いして。
 大切にしているだなんて。
 ……馬鹿ですね。
 プレゼントを盗んだ犯人と相対しているというのに、何故か私の胸は不思議な充足感で満たされていった。
「さて、警察に電話しましょう。私は糖分過多な己己己さんと違ってブラックなので」
「ブラックジョークにしても笑えない……って、ちょっと待て!? あんた、さっきあたしの名前に傷をつけるなって言ってなかった!?」
「傷はつかないのでは? むしろパトカーに乗るなんて箔がつきそうですが」
「おまけに前科もな……って、馬鹿か!? 笑えないから!」
「大丈夫です。頑張って不起訴になれば前科はつきません」
「そんなところで頑張りたくない……」
 がっくりとうなだれる己己己さんを見て、私はいつの間にか微笑んでいた。
 ……犯人に微笑みかけるだなんて、私も己己己さんと同じくMAXコーヒーですね。

落語り帳~楽日~
十千しゃなお
2014-05-21

今日から三日間なので、火曜日の夕方までですね。こちらの『落語り帳~楽日~』が無料になります。
 [ストーリー性が薄いので落語り帳シリーズはどれから読んでも、どれかを読み飛ばしても大して影響はありません]
と注意書きは書いてありますが、シリーズ通して五冊目なので、200もDLされれば御の字でしょうか。今回の無料キャンペーンで。
 
よろしくお願いいたします。 

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前作『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?』はこちらから
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『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑮
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・ネタばらし?


『……清恵』
『……はい』
『……生だな』
『……生です』

 番組初の生放送はローテンションな二人の声で始まった。いつも淡々としている咏ノ原さんからも疲れが感じられるが、それもそのはず。

『……初ライブの次は初生放送か』
『……初物尽くしですね』

 ライブ直後に即生。寄り道をしないでライブから帰ったにも関わらず、私が家に着いたのは放送開始三十分前だった。パーソナリティにもリスナーにもハードすぎるスケジュールだ。

『……ちょっと、もう、馬鹿だよね? ダメでしょ、ライブのあとに生って』
『この放送が始まる直前まで、外のソファーで横になってましたね、己己己さん』
『……あんたもね』
『……暑かったですからね。三十度近くあったそうです』
『……会場はもっと暑かっただろ。人多すぎ』

 突発のライブということもあり、ドームを埋める姉御や咏ノ原さんには不相応な小さな野外会場。それに対し、訪れたのは千人を優に超すリスナー。買ったCDを持って行けば誰でも入れるという条件の甘さが、阿鼻叫喚の満員地獄を作り出してしまった。何か途中でパトカーとか来てたし。
 でも、あの場にいた人の胸には素晴らしい思い出として刻まれているに違いない。
 観客席からの大[結婚してくれー!]コールに照れる姉御や、[跪いて私の靴に口づけしなさい]という咏ノ原さんの歌声で本当に跪く訓練された豚のみなさん。
 二人の素晴らしいパフォーマンスはもちろん、観客席の盛り上がりも相まって、最高のライブとして成功を収めたと私は感じていた。

『……ですが、いい経験になりました』
『……誰だよライブのあと生やるって言い出したやつは? もうダメ出しする気力もないわ』
『……私です』
『え? ……ほんと?』
『……はい』
『……何で?』
『……ライブのあとに生放送は可能か知りたかったので』
『……考えればわかるだろ……』
『……予想するのと、実際に経験するのでは価値が違います』
『……いいことを言ってるっぽく聞こえるけど……で? 経験してみてどうだった?』
『……もうやりたくないですね!』
『何で逆ギレ気味なんだよ!?』

 ……二人とも疲れ切ってるなぁ。私も頭がボーッとしてるけど。

『……つーわけで、今日は最後までこんな感じで、だらーっとやりますか』
『……それはダメです。初めての生放送ですから』
『……まぁ、そうなんだけどさ……元気ないよ、もう』
『……でしたら、出してください。元気を』
『……んなこと言われても……そうだ。清恵、あたしのことお兄ちゃんて呼んでみ?』
『イヤです』
『……即答かよ。じゃあさ、』
『イヤです』
『まだ何にも言ってなくね?』
『何も聞きたくないということです』
『あんたねぇ……』

 咏ノ原さんらしい失礼な物言いだけど、どうやら姉御には怒る気力もないみたいだ

『……まぁ、今日はね、ほんと、好きにやっていいって言われてるんで、打ち上げ回的なね、そんな感じでやっていこうかな』
『でしたら、デコさんにも入ってもらった方がいいんじゃないです。今日は舞台裏で人一倍頑張っていましたし』

 若いからか、咏ノ原さんの声にもう疲れは感じない。いつもの淡々とした口調にすっかり戻っていた。
 それに比べて姉御は……。

『……それもそうだなぁ。……じゃ、デコ入ってきて』

 相変わらず疲れ切った声で呼び出すと、僅かにドアを開け閉めしたような音がマイクにのった。

『……お、お疲れ、っス』
『……あい、お疲れ』
『お疲れ様です』

 ん? どうしたんだろう。姉御はともかく、デコさんの様子も少しおかしい。元気がないというか。

『……じゃあ、始めますか、打ち上げ回生放送』
『打ち上げ回というわりには、普段と何も変わりませんけどね。生というだけで』
『……それもそうか。何か買ってくる? 下のコンビニで。何か腹減ったし』
『ありですね。その方が雰囲気が出そうです』

 好きにやっていいと言われているからか、早速好き勝手始めようとする二人。

『ちょ、ダメっスよ!? 収録中に抜け出したら! 生っスよ?』
『……甘いね、デコは。生だから面白いんじゃん』
『だ、だったら、自分が買いに行ってくるっス!』
『そうはいきません。デコさんも歴とした打ち上げメンバーです。ここは公平を期して、じゃんけんで買いに行く人を決めましょう』
『お、いいじゃん。言っとくけど、あたしのチョキはグーをも砕くからね?』
『何馬鹿なことを言ってるんです? そんな馬鹿なことがあったらじゃんけんが成り立たないじゃないですか。いきますよ? 最初はグー、じゃんけん、』
『あ、ちょ、』

 戸惑いっぱなしのデコさんを余所に、

『ぽん』

 無慈悲で公平なじゃんけんが始まってしまった。
 ラジオなので誰が何を出しているのかわからないけど、何となく咏ノ原さんはこういうので負けないような気がした。負ける姿が想像出来ないというか。姉御は勝つのも負けるのも似合う。

『あんだよ。あたしの負けかよ……』

 大きすぎる落胆のため息。うん、やっぱり姉御はリアクションがわかりやすいから、負けるのも似合う。

『己己己さん、私はあんまんでお願いします』
『あんまん!? 冒頭で暑かったって言ってたのに?』
『暑いときに熱いお茶を飲むのと同じです』
『それとこれとは別だろ絶対……デコは何がいい?』

 よくわからない理屈に呆れながら、姉御がデコさんに尋ねる。

『いえ、自分は大丈夫っス!』
『遠慮しないでください。お金はいっぱいありますから』
『遠慮するなとか、それ、あたしが言う台詞だからな? まぁ、清恵の言う通りだけど』
『でも……』

 何時になく遠慮がちなデコさん。流石に、姉御をパシリに使うのは気が引けるのかな? 体育会系ってそういうところ厳しそうだし。

『大丈夫だって。先輩っつうのは後輩に奢るために金もらってるようなもんなんだからさ』
『……わかったっス。それじゃ、甘めのパンをお願いするっス』

 珍しく姉御が優しく諭すように語りかけると、根負けしたのか申し訳なさそうなデコさんの声が聞こえてきた。
『パンね、了解。えーと、あんまんとパン。あたしもおにぎりくらいだから、財布じゃなくて小銭入れ持ってきゃいっか。えーと、鞄、鞄っと』

 ガタッ、という椅子を引く音に続き聞こえてきたのは、まるでがま口でもシェイクしたかのような甲高い無数の金属音。

『随分とうるさい鞄ですね』
『おっかしいな。小銭入れ開けっぱだったとか?』

 中身を確かめる為か、ファスナーを開く音がしたと思ったら、

『……あ!?』

 姉御は悲鳴にも似た驚きの声を上げた。

『どうしたんです? 突然大きな声を出して』
『……小銭入れがない』
『じゃあ、その鞄の中でジャラジャラ言ってる小銭は何なんですか?』
『小銭だけあるんだよ、小銭入れはないのに……』

 小銭はあるのに小銭入れはない……?

『言っている意味がイマイチよくわかりません。つまり?』
『つまり……あたしもやられたってこと。例の置き引き犯に』
『己己己さんもですか?』

 咏ノ原さんの問いに姉御はため息と舌打ちで返す。だらけきった空気はピリピリと張り詰めたものに変わりつつあった。

『……これでこのスタジオにいる人は私以外全員被害に遭ったことになりますね』

 息をするのも躊躇ってしまいそうな緊張の中で、咏ノ原さんはいつもと変わらない淡々とした声で状況をまとめる。

『……何でわかったの?』
『何がです?』
『自分は盗まれないって前から言ってたでしょ? ……もしかして』

 もしかして。姉御はその先を言わなかったけど、咏ノ原さんのことを疑っているのだろうか。咏ノ原さんが犯人なら、確かに自分は盗まれるはずがない。
 でも、咏ノ原さんはそんなことする人には思えないし、動機がわからない。
 不穏な空気の中で生まれた沈黙。
 それを破ったのは、やはり淡々とした声だった。

『言ってもいいんですか?』
『どういう意味?』
『犯人さんに辿り着いてしまう可能性が高いです』
『いいじゃん別に。つか、辿り着いた方がいいだろ。どう考えても』
『……本当にいいんですね? 生放送ですから、取り返しはつきませんよ?』
『構わないよ。あたしは被害者だからね』

 平静を装うとしているが、言葉の節々に憤りが感じられる。
 やっぱり、姉御怒ってるなぁ。この間の、ジョンからの手紙さんのときとは違う、ネタではない本物の怒り。
 普段なら仲のいい咏ノ原さんを疑うなんてこと絶対にしないだろうし。
 
『わかりました。……では、まず犯人さんの手口について振り返りましょう』
『犯人の手口?』
『はい。今回の連続置き引き事件の犯人さんには特徴がありましたよね?』
『……中身を盗らないで財布だけ盗ってく』
『その通りです。己己己さんは小心者の手口と言っていましたが、この方法は場合によっては盗り損になる可能性があります』
『盗り損? どういう意味?』

 盗んで損。ババ抜きでババを引くみたいな感じなのかな……?

『単純なことです。財布自体にある程度の価値がなければ、売りさばくことは出来ません』

 ああ、なるほど。そういえばそうだ。私もこの間、古本屋に本を持っていったらほとんどの本に値段がつかなかった。

『……待て。財布を売って金にしてるんじゃないかって言ったのはあたしだけどさ、お洒落目的で盗んでる可能性は?』
『男物女物関係なくですか? 重複も関係なくです?』
『それは……』

 先に盗まれていたプロデューサーの加藤さんとディレクターの福永さんは男で、使っている財布は同じブランドの全く同じ財布だった。
 つまり男物女物無差別で、重複も気にしていない。お洒落目的で盗んでいるにしてはちょっと節操がなさ過ぎる。

『……確かに、己己己さんの言う通り、お洒落目的で犯行に及んだ可能性も完全に消し去ることは出来ません。ですが、そうだとしても私は盗まれませんけどね』
『回りくどいな……だから、どうしてそう言い切れるんだよ?』
『もう答えは言いましたよ?』
『はぁ?』

 姉御の口から疑問符が飛び出る。
 もう答えは言っている……。
 咏ノ原さんが盗まれない理由……。
 男物でも女物でも関係なく、重複していても盗む犯人が咏ノ原さんの財布を盗まない理由。
 ……あ!

『……財布自体に価値が必要ってことか』

 その理由は咏ノ原さんの使っている財布にあった。

『その通りです。そして、私の財布は中学生のときに五百円で買ったビニール製の財布……リスクを犯してまで盗む必要はないんです。手口を変え中身を盗ったりしたら、警察が介入することになりますからね。それは犯人さんも避けたいことです』
『なるほどね』

 咏ノ原さんが愛用している財布として売り出せば、値段はつくかもしれないが足もつく。かといって、ただの使い古された五百円のビニール財布では売り物にならない。
 だから咏ノ原さんは盗まれない自信があったのか……。

『さて、ここで問題です。加藤さん。井崎さん。福永さん。デコさん。己己己さん。この五人の中に一人だけ盗まれてはいけなかった人がいます』
『盗まれてはいけなかった……?』

 今までの話の流れから察するに、それは咏ノ原さんと同じく財布に盗む価値がない人だ。

『……それはあなたです。デコさん』

 デコさんの財布は、咏ノ原さんと同じ、中学生から使い込んでいるビニール財布。
 おまけに芸能人である咏ノ原さんとは違い、デコさんの財布に付加価値はない。

『……え? ちょ、え、ちょ……ちょっと待って……? どういうこと?』

 淡々と突きつけられる推理に取り乱したのは、デコさんではなく姉御だった。
 体育会系で頑張り屋のデコさんがまさか、という思いがあったのかもしれない。
 私だってそう。デコさんの頑張りはこのラジオでよく耳にしていた

『忘れてしまったんですか? デコさんの財布は私と同じビニール製の安物……つまり、価値がないんです』

 淡々と。淡々と。咏ノ原さんの声にショックや怒りは見えず、それが余計に鋭利な刃物のように突き刺さる。

『では、何故デコさんの財布が盗まれたのか……自分も被害者になって疑惑の目を逸らす、そう考えたんですよね?』

 今思えば、デコさんの財布が盗まれたと聞いたときの咏ノ原さんの反応は妙だった。もしかしたら、あのときから気づいていたのだろうか。

『デコさん。あなたが犯人さんです』

 咏ノ原さんが再度非常な推理を突きつけると、まるでそれまで止まっていた時間が動き始めたかのように、大きなざわめきが起こった。
 そうだ、冷静に考えれば、これは生放送なんだ。
 生放送で窃盗犯を見抜くだなんて、前代未聞だし、それこそ咏ノ原さんが警告していたように取り返しはつかない。
 一体、どのように収拾をつけるのだろうか。
 少しの興味と大きすぎる不安を抱きながら、ざわめきに耳を澄ましていると、

『……なーんてな!』

 暗い空気を吹き飛ばすような姉御の明るい声が聞こえた。

『……はい?』
『いやー! まさか清恵がこんな簡単に引っかかるとはねー!』
『己己己さん……?』

 淡々としながらも訝しげな咏ノ原さん。戸惑いは隠せていない。

『騙されてるとも知らないでこんな真面目に推理しちゃって。大成功だな!』

 からかうような笑い声を姉御は上げているけど、私には何が何だかさっぱりだ。

『大成功です?』
『ドッキリだってこと! まさか生放送で犯人公開なんてするわけないじゃん! 全部嘘!』
『ですが、』
『お、時間か。というわけでドッキリ大成功! 一旦CM入りまーす!』

 有無を言わせない強引な進行。それは誰が聞いても不自然なもの。

『……もしかして、先日の、私が収録時間を間違えたというのもドッキリなんです?』

 あ、そのネタばらしもまだだったんだ……。
 というか咏ノ原さんもよく覚えてるなぁ……。
 そんなことを思っている間に流れ始めたCM。
 ……本当にドッキリなの? それとも?
 初めての生放送は波乱の幕開けで始まった。

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