十千しゃなお 電子書籍 オススメ

電子書籍。その中でも素人さんの作品を紹介するサイト。だったはずが最近は全く紹介出来ていないサイト

2015年12月


前回分にはこちらから。

『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?3』①
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?3』②
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?3』③
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?3』④
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?3』⑤


・ドーナツ
 意外な一面についての話は続く。

『……清恵から見て、何かある? あたし。意外な一面』
『己己己さんの意外な一面……』
『あれね、面白くなかったらステッカーなしね』
『……なるほど』

 そう言って軽く押し黙る咏ノ原さん。自分の話が面白くなかったら、リスナーへのステッカープレゼントがなくなってしまう。咏ノ原さんのことなので、そんなことに責任感は感じてなさそうだけど。多分、姉御の行いを色々と頭の中で思い出しているのだろう。
 姉御の意外な一面……。何かあるかなぁ。

『……あ』

 私も姉御の意外な一面について考えていると、咏ノ原さんは何か気づいたのか声を漏らし、微笑ましそうにクスクスと笑った。

『何々? 何、急に笑ってんの?』
『いえ……意外と可愛らしい人だなと思いまして』
『はぁ!? え、何、意味わかんないんだけど』

 不意を突かれ、困惑する姉御。姉御は綺麗な人だけど、確かに可愛らしさとは無縁な人な気がする。

『今日、お昼ご一緒したじゃないですか。ドーナツを』
『うん。……って、ドーナツ食べたから可愛らしいとか言わないよな?』
『違いますよ。そこのドーナツ屋さんはかなり評判のお店で、バイキング形式じゃなくて、注文したものを店員さんに取っていただくのですが……己己己さん、何を頼んだか覚えてますか?』

 何を頼んだかが大事なのかな? ……話は一体何処に辿り着くのだろう。

『えーと……確か……オールド、』
『オールドパッションオールドパッション言ってましたけど、あれ、オールドファッションですからね?』
『え……?』

 目が点になっていそうな、素っ頓狂な声が上がる。
 ……オールドファッションて、あれだよね。ちょっと割れ目の入っているサクッとした奴。最近では何処のコンビニでも売ってて、私も見かけるとついつい買っちゃうんだよねぇ。まさか姉御、あんな有名なものをずっと間違えて……。

『う、嘘でしょ?』
『嘘をついてどうするんですか。伝統的なスタイルのものだからオールドファッションて言うんですよ』
『……だから、あのとき清恵も店員さんもクスクス笑ってたのか』
『はい』
『あんたさぁ……』

 笑ってないでそのときに教えてくれよとばかりにため息をつく姉御。
 だが、咏ノ原さんの話はここで終わらなかった。

『……ちなみにフレンチクーラーじゃなくてフレンチクルーラーですからね?』
『まじで!?』

 あ、姉御……。

お久しぶりです。
十千しゃなおです。
でも、三日に一度『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?』を掲載しているので、あまり久しぶりな気はしません。

というわけで、その『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?』の話。
十二月十日までに出せたらなぁと前回のブログ辺りで言っていましたが、欲しかったゲームの発売が延期になったので、目標を十二月中の出版に改め、ネタを少し増やしました。
そんなこともあってか、四巻は長いものになりそうです。多分、一番長かった二巻の倍くらいでしょうか。このシリーズはサクサク読めるのがコンセプトにあったりなかったりするので、個人的にはあまり望ましくなかったり。中編くらいが一番いいかなぁと思っているので。
いつかのブログで言ったと思うのですが、四巻ではこれまでと違う大きな要素があります。もうこれはハッタリじゃなくて、しっかりとした変化です。ですが、自分はこれまでの声春ラジオも好きですし、読んで下さる方にもそういう方はいると思うんです。なので、これまで通りの声春ラジオを今までの量を用意し、これまでと違う声春ラジオを同じくらいの量を用意した結果、このシリーズにあるまじき長さになってしまったというのが実情です。でも、まぁ、一話の長さはいつも通りなので、そこら辺は……ね?
というわけで、続報を待て!

多分タイトルは『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?④~私たちの声、届いてますか?~』になるっぽいです。



前回分にはこちらから。

『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?3』①
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?3』②
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?3』③
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?3』④


・贅沢
 ある日の声春ラジオ。

『清恵ー。メール』
『また私です? ……わかりました』

 いつも自分ばかりメールを読まされていることに釈然としないながらも、了承する。このラジオが始まって以来、ほとんど咏ノ原さんがメールを読んでいるが、どうやら本人的には納得がいっていないらしい。

『もち、……もちち。……えーと、もちもちちさん、ですね。もちもちちさんからのメールです。己己己さん、清恵さんこんばんは』
『あい、こんばんは』
『この声春ラジオが始まってから一年と半年ほど経ちました。お二人は公私ともに仲がいいそうですが、これまで付き合ってきてわかった意外な一面て何かありますか? ステッカー希望……とのことです』
『なるほど……何か無難だな』
『ステッカーはどうします?』
『んー……話題終わってからかな』

 ステッカーというのはこの番組のオリジナルステッカーのことで、ようやく最近になってから作った初の番組グッズだった。メールを採用されたからといって、必ずステッカーがもらえるわけではなく、全ては姉御と咏ノ原さんの気分次第。ステッカーを作ってから一ヶ月が経つが、まだステッカーを手にしたリスナーはいない。私も頑張ってメールを送ってるんだけどなぁ……。

『お互いの意外な一面か……』
『ありますか?』
『そうだなぁ……清恵ってさ、あれじゃん? 真面目で冷めた感じじゃん? クールっていうか』
『そうですか? 自分のことなのでよくわかりませんが……』

 わかるわかる。達観しているというか、客観的というか。無機質というか、常にニュートラルというか。

『多分リスナーのみんなもクールで合理的だって清恵のこと思ってると思うんだけど……実はね、意外と無駄なことが好き』
『……確かにそうかもしれませんね。意外かはわかりませんが』

 それはちょっと意外だ。自分に利がないことなら、例え目上の人からの命令でも「何で私がそんな無駄なことをしなければならないんですか?」って言っちゃいそうなイメージなのに。

『この間なんだけど、清恵が泊まりに来てたときね。その日は一日オフだったから、お昼ぐらいまで寝てよっかなって考えてたんだけど、何か物音が聞こえてきたのね。お昼前だから、だいたい十時くらいかな』
『物音……? 何かありましたっけ?』

 惚けるでもなく、本当に思い当たることがないかのような素直な声。というか、泊まりに来たとか言っちゃっていいんだ。姉御、年が離れてて恥ずかしいからって、咏ノ原さんとのプライベートを昔は話したがらなかったのに。

『あったよ。カチャカチャカチャカチャ、カチャカチャカチャカチャ。一定のリズムでさ。で、寝室に清恵の姿も見えないから、とりあえず音がするリビングの方に行ってみたわけ。そしたらさ、この子何してたと思う?』

 何だろう……咏ノ原さん綺麗好きっぽいし、掃除とか食器洗いとかかな。
 なんて、何となく考えていると、

『延々サイコロ転がしてんの! しかも朝の六時からとか言ってんだよ? やばくない?』

 信じらんないでしょ?と姉御は私たちリスナーに訴えかけた。
 ……サイ、コロ?
 サイコロって、あのサイコロだよね……? あまりに突拍子のないことなので、ちょっと理解が追いつかないというか、笑うことも出来ずにポカンとしてしまう。

『ああ、あれですか。あれは、己己己さんの家にあるサイコロの出目にどのような偏りがあるのか調べていただけです』
『だけです、って……いやいや、おかしいでしょ』
『何がです? ああ見えてサイコロには一つ一つ僅かな違いがあるんですよ? 本当に僅かなものですが』
『いや、そういう話じゃなくて』
『はい?』
『どう考えても時間の無駄でしょ。そんなの調べたってさ』
『はい』

 その通りですが何か問題でもあるんですか? そう言わんばかりに答える。

『時間を無駄にするのって、贅沢だと思いませんか? 時間を惜しみなく使っているというか』
『……財布の中に入っている小銭で塔を作るのも?』
『はい。小銭で塔を作っても、得をすることは何もありません。ですが、そういう風に時間を贅沢に使うのって素敵だと思うんです』
『せっかくの休みなのにもったいなくない? あんたの場合、仕事だけじゃなくて学校も行ってるんだし』
『せっかくの休みだからですよ。それに私は時間を無駄にすることで癒やされているつもりです』
『はー……。わかるようなわからないような……。これがさとり世代ってやつ?』

 姉御に同感。時間の使い方は人それぞれだと思うけど、私だったら絶対に勿体ないって思っちゃうかなぁ。
 これがジェネレーションギャップ……いや、咏ノ原さんが特殊なだけな気も……。このラジオを聞き始めてから咏ノ原さんのことも追っかけているが、未だによくわからない子だなって思う。

『けどさー、今度からはあたしが起きてからやってよ。何か気になっちゃうからさ』
『己己己さんが起きてから……? 嫌です』
『は? 何でよ?』
『何でせっかく己己己さんが起きているのに、そんな無駄なことをしなければならないんですか』
『あんた、無駄なことをして癒やされてるって言ってなかった……?』

 つい先ほどの発言はなんだったのか。もしかしたら、姉御と過ごす方が贅沢な時間の使い方ってことなのかな? 
 ……本当にこの人はよくわからない。

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