十千しゃなお 電子書籍 オススメ

電子書籍。その中でも素人さんの作品を紹介するサイト。だったはずが最近は全く紹介出来ていないサイト

2016年04月

お久しぶりです。
十千しゃなおです。
今日はウマ娘回ではないです。


最近、カクヨムの方に小説を載せているのですが、いい感じです。レビューがとか、アクセス数がとかではなく。精神状態が、と言えばいいでしょうか。
このブログを読んでいる方ならある程度察していただけると思いますが、自分はサボりがちなタイプです。なので、毎回締め切りを自分で決めて連載することで、ちゃんと書くようになりました。やったね。
なんでしょうね? 夏休みの課題をやっているような感覚? やったことないですが。

ですが、正直、3日に1回更新ていうのは失敗でしたね。だるいです。だるだるです。あの、忘れます。自分が。「あれ? もう3日経ったっけ?」ってなります。

というわけで、更新頻度を変えたいと思います。
まずHAPPY<SPRINTに関して。
最近計ってみたところ、自分は45分間に平均約2000字書いているみたいです。早い人って1時間に10000字も書くんでしたっけ? すごいですね~。
で、連載1話分が平均4000字くらい。
一応連載にまだ載せていない分が50000字くらいあります。
うーん……しばらくは毎日更新してみようかしら。

次、声春ラジオに関して。
これは今のところリサイクルしかしていないので毎日更新は可能ですが、問題はストックがなくなってからですね。
息抜きでスラスラと書いて生まれたこのシリーズですが、今では普通の小説よりも書くのに時間がかかるようになりました。意外かもしれませんが。
ですので、ストック切れちゃったら毎日更新は厳しいかもしれません。けど、まぁ、しばらくは毎日更新にしてみようかと。

みなさんには夏休みのラジオ体操に来ている子供にスタンプを押すおじさんの気持ちで見守っていただけると幸いです。「お、十千くん今日もきてるじゃん」的な感じで。生暖かい感じで。



て、書くと、すっかりカクヨム勢っぽいですが、あの、KDPに出さないわけではないです。まとまったらそっちに出す予定です。でも、お金をとるのなら何かしらの差別化を考えたいですね。個人的にその方がスッキリなので。

てな感じです。


次にブログを書くとしたらウマ娘回の続きでしょうか。


以上、あなたの心の当選者☆十千しゃなおでした♪
  

 ウマ娘です。
 十千しゃなおです。
 今日は約束通り、先日 Cygamesさんから制作が発表されたウマ娘 プリティダービーについてのブログに致しましょう。

 まずはこれを。

 まだ制作の発表がされたばかりで、PVくらいしか素材はないのですが、十千さんを含め、お馬さん大好き競馬クラスタの人々は一体どの女の子がどの馬なのかを予想してきました。今日はどの女の子がどの馬なのかと、その馬についてちょっと紹介しようかなって思います。
※ついでにその馬のベストレースの動画を貼りますが、これらの動画の権利って……。

 先にルール?を説明。
 これから紹介するのはPVのレースで走っている18頭。
 18頭の理由は走っているレース(日本ダービー)がフルゲート18頭だから。
 レースの中でショートパンツを履いている馬は牡、ブルマをはいているのは牝という有力な説を予想の根拠に入れています。


 じゃあ、まず◎(間違いなくこれでしょって)馬から紹介しましょう。◎なので「え? 予想の根拠は?」という質問は受け付けません。
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 これは簡単ですね? そう、日本競馬史で唯一[皇帝]と呼ばれた馬、シンボリルドルフです。

シンボリルドルフ 牡 父パーソロン 母スイートルナ(母の父スピードシンボリ)
16戦13勝GⅠ7勝
主な勝ち鞍
・皐月賞 ・日本ダービー ・菊花賞 ・春の天皇賞 ・ジャパンカップ ・有馬記念×2

 無敗で三冠(皐月賞・日本ダービー・菊花賞のこと。三歳しか出走することが出来ないため、挑戦するチャンスは一度きり)を制し、史上初にして現在でも最高到達点である七冠馬の栄誉を授かった名馬です。
先行してそのまま押し切るという堂々たるレースぶりは安定感抜群で、当時のファンには[サイボーグ]とも呼ばれていました。
 幼少時はルナと可愛らしい名前で呼ばれており、そこら辺の設定も拾ってくるのかなと思っていたり。
あまり差をつけて勝つ馬ではないのでベストレースを選ぶのは難しいですが、十千さん的には二回目の有馬記念ですかね。 
 
 その年に皐月賞と菊花賞を制したミホシンザンを従えて先頭を駆け抜ける威風堂々たる様はまさしく皇帝と言えるのではないでしょうか。
 愛称はルドルフ。

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 これも簡単ですね? あの馬です。日本競馬史において国民的知名度を誇っていた最後の馬。ディープインパクトです。

ディープインパクト 牡 父サンデーサイレンス 母ウインドインハーヘア(母の父Alzao) 
14戦12勝GⅠ7勝
主な勝ち鞍
・皐月賞 ・日本ダービー ・菊花賞 ・春の天皇賞 ・宝塚記念 ・ジャパンカップ ・有馬記念 

 シンボリルドルフから21年ぶりに無敗で三冠ロードを走り抜き、同じく七冠馬となった名馬です。 
 道中は最後方を追走し、全ての馬をこともなげに抜いていくレーススタイルは多くの人々を熱狂させ、引退してからは種牡馬として輝かしい実績を残し続けています。故にファンが多く、アンチも多いのですが、この馬を抜きに21世紀の競馬シーンを語るのは不可能と言ってもいいのではないでしょうか。
 この馬のベストレースを選ぶのも難しいですね。二度目の有馬記念や若駒Sなど素晴らしいレースが沢山あるので。強いてあげるのなら春の天皇賞でしょうか。 

  このレースは3200mのレースなのですが、3000m通過時点のタイムが3000mの世界レコードより早いというとんでもないレースです。当然世界レコード。この馬の武器であるロングスパートが一番分かりやすいレースかもしれません。最高時速が他の馬より抜きん出ている上に、最高時速を維持出来る時間が他の馬より圧倒的に長い。そりゃあ強いわけですよ。
 愛称はディープ。

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 この馬も非常にわかりやすいですね。そう、あの馬です。日本競馬界の悲願に最も近づいた馬。 エルコンドルパサーです。

エルコンドルパサー 牡 父Kingmambo 母サドラーズギャル(母の父Sadler´s Wells)
11戦8勝GⅠ3勝
主な勝ち鞍
・NHKマイルカップ ・ジャパンカップ ・サンクルー大賞

 日本馬として初めてジャパンカップを三歳で制し、後に最強世代と呼ばれる98世代の中でも最強の呼び声が高い外国産馬。四歳になってからは国内に敵はもういないと判断し、長期欧州遠征を敢行。世界最高峰のレースと言われている凱旋門賞において、あと一歩というところでフランスの名馬モンジューに差しきられ、半馬身差の惜敗。この結果に日本競馬界は希望を見出すと共に、勝たなければならないという呪いを潜在的に植え付けられてしまいました。以降、毎年のように日本馬が凱旋門賞に送り込まれていますが、2016年現在、まだ勝った日本馬はいません。
 この馬のベストレースをあげるとしたら、負けてしまいましたが凱旋門賞でしょうか。このレース以降、日本競馬界において凱旋門賞というレースの認識は明らかに変わりました。

 うん。やっぱり、重馬場のモンジューは強いですね。正直、馬場が悪いときのモンジューは歴史上最強クラスだと思っているので、半馬身差の二着は素晴らしいです。現地では「チャンピオンは二頭いた」と称えられたと伝えられております。
 愛称はエルコン。エルだとエルグランセニョールと勘違いする人がいるの……いないか。いないです。いなーい。

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 この馬もかんたーん。そう、あの馬ですよ。あの馬。スピードの向こう側に駆け抜けた最速の馬。サイレンススズカです。

サイレンススズカ 牡 父サンデーサイレンス 母ワキア(母の父Miswaki) 
16戦9勝GⅠ1勝
主な勝ち鞍
・宝塚記念 

 先の三頭に比べ実績は大したことがないかもしれません。この馬は記録よりも記憶に残る馬なので。鞍上に日本競馬界の象徴たる武豊騎手を迎え入れると、他馬をどこまでも突き放す大逃げという個性を武器に連戦連勝。あのエルコンドルパサーやグラスワンダーという98世代最強の二頭を子供扱いするなどインパクトのある要素が満載です。最後はダントツの一番人気で迎えた秋の天皇賞の最中に足を骨折。府中競馬場が悲鳴に包まれる中、予後不良の判断が下され、この世を去りました。もし、脚が無事だったなら、あのレースは勝てていたのだろうかと想像する競馬ファンはきっといません。こう思う人が多いでしょう。もし、脚が無事だったなら、あのレースはどんな世界レコードを叩き出したのだろうと。
 この馬のベストレースは金鯱賞ですかね。メンバー的にはエルコンドルパサーやグラスワンダーに影すら踏ませなかった毎日王冠も捨てがたいですが、金鯱賞の方が「これがサイレンススズカだ!」って感じです。

 ね? インパクトのある馬じゃないですか?
 愛称はスズカ。あるいは(サイレン)ススズ(カ)。
 

 って感じで、今日はお終い。思ったより長くなっちゃったので、何回かに分けようと今考えました。 その方が読みやすいですよね。


 以上、あなたの心の当選者☆十千しゃなおでした♪ 

です。
十千しゃなおです。
HAPPY<SPRINTの更新じゃないのは久しぶりでは?

突然ですが、このブログで連載していたHAPPY<SPRINTの更新をカクヨムの方に絞ろうかと思います。
理由としてはカクヨムの方が更新しやすい&(ブログよりかは)読みやすいからです。ブログで読んで下さっていた方には申し訳ごめんなさい。

というわけで、早速最新話もカクヨムの方に載せたので、よろしければどーぞ→こちら 


あと、もう一つカクヨムの方に移行する理由があって、こっちで連載してると普通のブログが書きにくいんですよね。最近書きたいこといっぱいあるので。
ウマ娘とかプリティダービーとか 

というわけで、早速明日普通のブログを更新しようかと思います。
題して【ウマ娘!初期(?)メンバーと思わしき馬を紹介!~果たしてトーセンシャナオーは出られるのか!?~2016】です。
お楽しみに☆。


あなたの心の当選者☆十千しゃなおでした♪。 

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連載七話目 
連載八話目
連載九話目 ←New

連載七話目 
連載八話目
――――――――――――――――――――

「……おい、クソガキ。逃げなくてもいいのかよ? 俺の身体乗っ取ったって、あのギャルは撃つぜ? 俺ごとな」

 見出した勝機に笑みが零れてしまいそうになるのを堪え、魔女のことを挑発した。

「あー! またクソガキって言った! クソガキって言った方がクソガキだもん!」

 不満そうに頬を膨らませながら、魔女は上空にて待機するリディアーヌのことをチラリ見た。いつリディアーヌも参戦してくるのか、警戒しているのは明らかだった。

「今更逃がすと思うなよ? 屋敷のクソみてぇな罠でこちとら頭にきてんだ」
「え? 罠?」
「とぼけてんじゃねぇぞ! てめぇの爆弾で何人やられたと思ってやがる!」

 この屈辱を忘れてたまるかよ。犬歯を剥き出しにしてサトラが睨みつけると、

「ち、違うもん! やれって言われたからやっただけだもん!」

 魔女は自分は悪くないと言わんばかりに震える声で叫んだ。

「ああ!? 誰だそいつは?」
「お、お金くれる人」
「金……? 名前は?」
「知らない。会ったことないもん」
「は?」

 さらっと言い捨てた魔女の言葉がサトラの怒りに触れた。知りもしないやつの命令でRAIDの隊員たちは爆炎に飲まれた? そんな適当な理由を許すことなんて出来なかった。気に食わない連中ではあったが、それとこれとは別の話だった。戦場を共にした仲間の死を汚されて黙っていられるわけがなかった。

「知らねぇやつの言いなりでこんなクソみてぇなことやってんのか? ……ふざけんな!」
「だってしょうがないじゃん! わたしたち不認魔女が生きていくにはこうするしかないんだもん!」

 サトラに向かって気丈に言い返す魔女の目は大粒の涙で潤んでいた。その涙はこの世界における不認魔女の現状そのものだった。
 魔女であるという理由だけで、本人の人間性に関係なく仕事場や集落を追い出されてしまう不認魔女たち。中には家族から一人追い出される少女もいた。中には追い出されるまで自分が魔女だったと知らないものまでいた。それでも世界は手を緩めたりせず、手を差し伸べたりしなかった。だから、認められない彼女たちは生きていくために、出来ることはなんでもするしかなかった。例えそれが認められない行為だったとしても。

「だからって誰かを傷つけてもいいってか? このクソガキが!」
「く、クソガキじゃないもん! じゃあどうすればいいの? わたしたちに死ねって言ってるの?」

 目の端いっぱいに涙を溜めながら魔女が問う。その姿はただの幼気な少女であり、魔女という世界から危険視されている存在には見えなかった。
 彼女のように、多くの魔女は好き好んで犯罪に手を染めているわけではない。そのことはサトラもよく知っていた。大人だけではなく少女までもがその無垢な手を汚さなければならないほど救いのない世界だと。
 だからこそ許し難かった。
 すがるものがないという弱さにつけ込み、魔女を犯罪に利用する汚い大人たちが。
 だからこそ苛立たしかった。
 こうする以外に道はないと自分の行いを正当化する不認魔女たちが。
 だからこそ腹が立った。
 何の解決策も持たないままこうして魔女に説教をしている自分に。

「知るか! んなもんてめぇで考えろ!」
「何よそれ! お姉ちゃんだって何にもわかってないじゃない! 何人もわかってないくせに偉そうなこと言わないでよ!」

 宙に制止していた魔力光の衛星たちが、荒ぶる魔女の心に反応するかのようにまたグルグルと彼女の周りを回り始めた。

「……もういいもん。お姉ちゃんなんて……いらないもん!」

 そう涙目で叫んだ魔女が右手を突き出し、手のひらと周囲を回る衛星から紫色の魔力光が次々に放たれた。

 ――来たな!

 再開する攻撃。飛来する紫色の光。出来るだけ魔力を温存するために、魔女の攻撃を弾いたり逸らしたりすることはせず、サトラは一定の方向へと横っ飛びするように避け、転がり込むように避け、自分が見つけたその物体だけを目指した。

「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い!」

 魔女が髪を振り乱し感情を剥き出しにしながら放つ魔法の一撃をサトラはなんとか交わし続けていた。敵の攻撃を避け、地面を転がり回る姿は決して格好のいいものではなかった。しかし、これも勝つために、屈辱を晴らすために必要なことだと考えれば、自分の惨めさを甘んじて受け入れることが出来た。
 頭に飛んできた光の槍をゴロゴロと横に転がることで交わすと、サトラの手はついにその物体に触れた。魔女にバレないように素早く掴んで魔女に背を向け、左手ごとその物体をローブの袖にしまい込む。これで準備が整った。立ち上がり、魔女の姿を身体の正面に捉える。左の袖から出した手は氷色の輝きで包まれていた。

「もう、眩しいなぁ……!」

 不快そうに魔女が吐き捨てると衛星の回転速度が上がり、放たれる光の洪水は激しさを増した。それでもサトラがこれまでのように地面を転げ回ることはない。最小限の動きで攻撃を避け、少しずつ、確実に魔女との間合いを詰める。

「サトちん……」

 増えた流れ弾に対処すべく、自身が放つ魔力光の光線の数を増やしながら、リディアーヌは心配そうに相棒の戦いを空から見守っていた。
 サトラは避けながら近づける限界の距離まで近づくと、

「行くぞクソガキ!」

 先ほど近づいたときと同じように、魔力光を纏った手で光の槍を弾き返し、迫っていた次弾と相殺。目を覆いたくなるほどの光が拡散する中で、サトラは一気に間合いを詰め、魔女の目の前に立った。

「くたばれ!」

 魔女を呪い殺さんとばかりに睨みつけ、魔力光を纏った拳を振りかぶる。
 それに対し、魔女は本当に懲りないやつだと紫色の魔力光の迸る両手を構えた。
 ここまでは先ほどまでと同じ。
 けれどサトラはそのまま躊躇することなく、魔女の顔面めがけて闘志の籠もった拳を振りきった。実体すら見えないほど氷色の輝きに包まれた拳は空気を押し貫き、一直線に目標へと迫る。

「……全力で殴れば、掴まれる前にわたしを殴れると思った? ……お姉ちゃんのばーかばーかばーか!」
 
 キャッキャと喜びながらサトラを罵倒する魔女。魔女の両手に手首を掴まれ、サトラの拳は顔面に当たる直前で制止していた。
 深々と腕に突き刺さる十本の指。
 傷口から流し込まれる紫色の魔力光。

「さーて、どうしよっかなー」

 勝利を確信したのか、あるいは乗っ取るには大量の魔力が必要なのか、魔女の周囲から魔力光の衛星が消え、彼女は高笑いを上げた。自分の魔力を流し込めば全てが意のままになるという自信。恐らく、この魔女はこれまで何人もの人間をこうして操ってきたのだろう。
 しかし。
 腕に開けられた穴から紫色の魔力光を流し込まれているというのに、サトラの目は今もなお灼熱の殺意でギラギラと輝いていた。

「……何、その目?」
「てめぇが握ったもんをよく見やがれクソ馬鹿野郎」

 絶体絶命のピンチであるはずのサトラに強い口調で促され、魔女は自分が両手で掴んでいるものを見た。
 魔女の掴んだ手。
 氷色の魔力光を失った手。
 サトラのローブの左袖から出たその手は、左手とは反対の順に指がついていた。
 つまりは右手。
 とっくのとうにもげ落ちたはずのサトラの右手だった。

「えっ!? ……あ、しまっ!?」

 サトラが講じた策にようやく気づき、魔女が両手を離そうとするも、彼女の両手が彼女の自由になることはもうない。魔女の両手はサトラの右手ごと氷付けにされていた。

「これで離せねぇよなぁ!」

 血走った眼で叫び、自分の右手だった氷塊を魔女ごと地面に向かって振り下ろそうと左手にありったけの魔力を込めた。これから襲い来るであろう激痛に備え、両目を固く閉ざした魔女。

 ――……チッ。

 その表情が目に入ると、サトラは心の中で舌打ちをして、彼女の左手首に巻かれた魂珠付きの革製バングルへと噛みつき、顎の力で思い切り噛み千切ってみせた。

「ああ!?」

 何てことすんの!と魔女が悲鳴を上げる。サトラは咥えていたバングルを地面に吐き捨て、コンクリートの床にヒビが入るまで右足で踏みつぶした。サトラの足によって粉々に砕かれた魂珠は艶めかしい紫色を失い、ただの灰色の石へと変わった。

「どうだ馬鹿野郎!」

 そう叫び、サトラが右手だったものごと魔女を軽く地面に放ると、彼女は尻餅をつき、
 大粒の涙を流し始めた。魂珠がなければ、魔女はもう魔法を使うことが出来ない。

〈サトちん! さっすが!〉

 一部始終を見ていたリディアーヌから祝福のテレパシーが届くも、サトラの表情に笑みはない。

「ママぁ……!」

 愛しの母親を呼びながら大声で泣く少女の顔を覗き込むかのように中腰になると、サトラは眉間に深い皺を寄せ、左手の中指を突き立てた。

「何が魔女だ、このクソガキが!」

 今日一日で感じた全ての思いを込め、サトラはざまぁみろと叫ぶのだった。



――――――――――――――――――――



「サトラさんが魔女を拘束しました」

 曉梅の報告に盛り上がるフロア。
 サトラの勝利は彼らの努力が実った瞬間でもあった。あるものは歓声を上げ。あるものは近くにいた人間と握手を交わし。あるものは熱い抱擁を交わす。
 喧噪に包まれる中で一人。感動で涙ぐみそうになるのを涼しい顔で我慢しようとする曉梅の横で、ジゼルだけは白い歯一つ見せず、無線でサトラに指示を出していた。

『よくやったサトラ。あとは地上班に引き渡し、ヴェンチアとともに帰投しろ。局に戻り次第、治療を行う』
『了解』

 サトラの返事に無線を切る。曉梅がポーカーフェイスでジゼルのことを見上げていたが、その目は涙でキラキラと輝いていた。

「やりましたね、ジゼル副長」
「ああ。だが、一件落着というわけではない。皆、引き続き捜査の方をよろしく頼む」

 辺りを見渡しながら命じ、局員たちは任務へと戻った。彼らの顔は未だ喜びと興奮に満ち、浮かれているうぴに見えるが、ジゼルは咎めることをしなかった。心の奥底から湧き出た感情は抑えつけられるものではない。女王蟻たるジゼルはそのことをよく知っていた。

「では、私はソフィアのところに行ってくる。まだ寝ているようなら、そろそろ起こさなくてはならないからな」
「寝起き悪いですからね、ソフィア先生」

 目の端からこぼれ落ちそうになった涙を誰にも気づかれないようにサっと拭いさり、曉梅は呆れ気味に言った。サトラの手柄をこのフロアの中で最も喜んでいるのは、同じ魔女隊員の一人である曉梅に違いない。

 ――本当によくやってくれた。

 巨大モニターに映し出された映像。リディアーヌと合流し、何やら談笑する片腕のないサトラに、ジゼルは心の中で感謝の気持ちを述べ、フロアをあとにするのだった。



――――――――――――――――――――



 オルレアン特別治安維持局。
 一階。医療フロアの一室。
 部屋の中に一つだけ置かれたベッドの上。薄い水色の病衣に着替えたサトラが横たわる。その横でリディアーヌと曉梅、ジゼルの三人が、局の専属医であるソフィアによる治療を見守っていた。
 眠気を感じさせるうつろな瞳。よれよれの白衣がある意味似合う浅黒い肌。血の色そっくりな寝癖だらけのロングヘア。サトラに向かってかざされた両手のひらからは髪の色と同じ魔力光が輝き、サトラの身体を優しく包んだ。

「あい、これで終わり」

 ソフィアが両手を下げると、真っ赤な魔力光は光の粒子となり、空気中に溶け込むように消えた。

「わかってると思うけどさ、絶対安静ってやつ。右腕もそうだし、あばらもまだ定着したわけじゃないからね」
「ありがと、ソフィア先生」

 ソフィアに感謝を述べるサトラ。その右肩にはもげ取れたはずの右腕があった。右腕は僅かに透明でシーツが透けて見えるも、感触を確かめるようとすると、サトラの意思通りに指は動いた。
 全てはソフィアのおかげだった。
 魂から情報を引っ張り出し、肉体として定着させる治癒の魔法。
 この魔法のおかげでサトラは再び右腕の感触を味わうことが出来た。
 多少の頼りなさを感じつつ、拳を握ったり、左手で右腕を触り、感覚を確かめる。

「RAIDに犠牲者は出たが、魔女は逮捕出来た。もしかしたら、彼女からこの国に蔓延る麻薬ネットワークに迫ることが出来るかもしれない……ご苦労だったな。サトラ、ヴェンチア」

 腕を組み、サトラのことを見下ろすジゼルから労いの言葉。

「べっつにー? 楽勝だよね、サトちん?」
「まぁな」

 白い歯を見せて答えるリディアーヌに合わせるように、サトラもニヤリと口角を上げる。任務中はとてもそうは思えなかったが、終わってしまえば全てが簡単だったように思えた。

「でもさー、サトちん。本当に魔女かどうか、確証を得るために突っ込んだってのはわかるけどさー、腕を落とすなんて面倒なことしないでさー、リディが直接やっちゃった方が手っ取り早くなかった? 何か理由あったの?」

 首をかしげながらリディアーヌが尋ねる。
 リディアーヌに魔女を撃たせず、サトラが突っ込んだ理由はいくつかあった。
 まず、子供が魔女ではないだろうかという自身の直感を確かめる必要があった。絶対に正しいという自信はあったが、もし万が一本当にただの子供だった場合、どれだけ非難の声が飛んでくるのかわかったものではない。それに、子供を殺すという嫌な経験をリディアーヌにはして欲しくなかった。
 故にサトラは突っ込んだ。自分の考えが正しかった場合、身体を乗っ取られてしまうというリスクを背負ってまで。恐らくそのことはリディアーヌもわかっていた。
 リディアーヌが尋ねているのはそこではない。

 [ガキが俺の腕にしがみついたら、合図出す! そしたら俺の腕を落とせ! 絶対ガキには当てんなよ!]

 これがサトラより飛ばされたリディアーヌへの指示だった。
 腕を落とさせるのには魔女の支配からサトラを解き放つためという明確な理由がある。あえて魔法を使わせることで、子供が魔女であることを確定させようと、サトラは最初から自分の身体を囮に使うつもりだったのだ。
 しかし。だったら何故リディアーヌにサトラの腕ごと魔女を撃たせなかったのか。

「……馬鹿野郎。そんなんで気が済むかよ。こっちはさんざこけにされてんだぞ」

 自分でぶっ飛ばしたいに決まってんだろ。と、サトラは開き直るように答えた。
 危うく爆殺されかけたことへの怒り。
 一瞬でも魔法の扱いがもっと上手ければと血迷わせたことへの憎しみ。
 坊主頭の女が魔女であると欺こうとしたことへの殺意。
 ついでにRAID隊員から性的な煽りを受け、気分を害されたことへの苛立ち。
 全てを解消し、屈辱を晴らすには、自分の手でぶっ飛ばす以外の選択肢はなかった。

「そんな理由~?」

 これだからサトちんは。リディアーヌは呆れるように笑ってくれた。だが、サトラの身体を治療してくれたソフィアは不満そうに眉をひそめる。

「そんな理由であたしの睡眠を妨げるかね? 許されることじゃないよね? それ」
「まぁまぁ、いーじゃんソフィアせんせ。リディたち魔女なんだから、ちょっとくらい寝足りなくても問題ないっしょ」
「はい? 何、その低偏差値な発言? 睡眠こそが美しい肌を保つ秘訣だってのに。若いからってかまけてると、五年後に後悔するよ?」
「ご、五年後? それはちょっと……」

 ボリボリと乱雑に頭をかきながらソフィアが脅しかけると、リディアーヌはゴクリと息をのんだ。いつでも可愛くありたいギャルに肌の話は効果覿面。年上であるソフィアからの話ともなれば、説得力は十分だった。
「それともあれ? あたしはあんたと違ってまだ十代だから問題ない。そういう風に喧嘩を売ってる? なるほどねぇ、よくわかった。ああ、本当によくわかったよリディアーヌ?」
「ちょ、何か怖いんだけど……?」
「そうだなぁ、売られた喧嘩はどうやって買おうか……。まず定期検診のデータから、あんたの体重と体脂肪率を男性局員に広めていくことにするか。うん、そうしよう」
「せんせ!? ウソウソ、せんせが正しい! リディが間違ってました!」

 陰湿な口撃にリディアーヌは半ベソをかいて必死になる。乙女の秘密たる体重バラしの刑=年頃のギャルに計り知れないダメージ。
 涙目で謝るリディアーヌと、オヤジっぽい豪快な笑みを見せるソフィア。二人の姿を見ていると気が抜けていき、サトラはようやく任務が終わったという実感がわいた。

「……ですが、気は済んだんですか? 結局、あの子には一撃も与えていませんが」
「あ、そうそう。それ、リディも思ったんだよね」

 曉梅の問いにリディアーヌが便乗する。

「サトちん超キレてたし、やり過ぎちゃうかもってハラハラしてたんだけど、あれ、何で?」
「何でって……別に何でもねぇよ。ただ気分じゃなくなっただけだ」
「ふーん……サトちんてば優しいんだねー」
「はぁ!? ふざけ、そんなんじゃねぇよ馬鹿野郎」
「はいはい、照れない照れない」
「てめぇ! リディ!」

 ニヤニヤとからかい続けるリディアーヌに掴み掛かろうと身を起こすと、

「こら。安静って言ってんでしょ。まったく、あんたたちはいつもいつも」

 ソフィアが呆れ顔で二人の間に割って入った。それでも、治ったら覚えておけよとサトラがリディアーヌのことを睨むと、彼女は余計楽しそうに笑みを浮かべた。

 ――別に優しさじゃねぇよ。

 自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
 本当なら。
 リディアーヌが想像していた通り、気が済むまでぶっ飛ばすつもりだった。自身のもげた落ちた右手ごと魔女を地面に叩きつけ、徹底的にぶっ飛ばすつもりだった。
 けれど。
 叩きつけようとした瞬間、痛みに怯える魔女の顔が目に入り、弱く、何も出来ずに全てを恨んでいた自分の姿が重なった。環境を恨み、境遇を恨み、自分の情けなさを恨むしかなかったあの頃の自分に。
 もし、普通の人間になりたくはないかという言葉がなかったら自分もあの少女と同じような道を歩んでいたかも知れない。そう気づいてしまった瞬間に同情してしまい、怒りの炎は少女ではなく少女を影で操つる存在へ向いてしまった。
 甘い判断だったということはサトラ自身もわかっていた。

「……感情にまかせてぶっ飛ばしちまったらあのクソガキと変わんねぇだろ。俺らの目的は魔女を逮捕すること。それだけだ」

 だからこそそんな自分自身を納得させるように最もらしいことを述べる。自分自身はともかく、皆納得のいく意見だったようで、誰からも反論は来なかった。

「……あーあ。明日はせっかくの休みだってのに、一日ベッドの上かよ」
「安心してねサトちん。リディと曉ちんが、サトちんの分もたーっぷり楽しんできてあげるから!」

 そう言ってリディアーヌが曉梅の首に腕を回し抱き寄せると、突然のことに曉梅は身体と尻尾をビクンと震わせた。

「お前なぁ……少しくらい気を遣うって気持ちはねぇのか」
「わかってるって。ちゃんとサトちんが退屈しないように、五分おきに電話すればいいんでしょ?」
「馬鹿野郎。嫌がらせじゃねぇか!」

 からかうリディアーヌに噛みつく。これがいつものコミュニケーション。
 そして、「この人たちは本当に……」と曉梅が呆れるまでが魔女小隊の日常だった。

「……無様ですね。サトラさんは」

 真っ直ぐにサトラの顔を見て、曉梅が毒を吐く。けれど、猫科の耳はしょんぼりと伏せてしまっていた。

「どうした? 俺を尻目に休日を謳歌するのは気が引けるってか?」
「はぁ? 何言ってるんですかあなたは。右腕だけじゃなく頭まで、」

 図星を突かれ早口になった曉梅の言葉を遮り、

「しっかり羽伸ばしてきな。そっちのが俺も嬉しい」

 あくまで気を遣えと言ったのは冗談だと諭すようにサトラは曉梅の頭を左手で撫でた。最初は驚き、僅かな抵抗が見られたものの、曉梅は俯いてされるがままに頭を撫でられた。
 まだ幼い曉梅にサトラは余計な心配をさせたくはなかった。何より、元々明日は一日寝て過ごすつもりだったので、眠るベッドが違うだけで当初の予定とはほとんど変わらない。

「サトラさん……」

 頭を撫でられながら、どうしたらいいのだろうと、俯いたまま悩みに悩む曉梅だったが、

「な?」

 とサトラが目を細め、白い歯を見せて促すと、

「……最初からそのつもりでしたが?」

 曉梅はそっぽを向いて、皮肉屋の彼女らしい返事をした。それはサトラの求めていた返事でもあった。

「じゃあ、曉ちん。今から明日の準備しよっか。リディがお洋服とか選んであげる」
「ええ、そうしましょう。私たちは明日休日ですからね」

 既に休日モード全開なリディアーヌに手を引かれ、曉梅もドアの方へと向かう。ファッション雑誌を片っ端から買い集めているオシャレ大好きギャルのコーディネートは、局内でも評判高かった。

「バイバイ、サトちん!」

 満面の笑みで大きく手を振るリディアーヌ。

「……おやすみなさい。お土産に何を買ってきても文句は言わないで下さいね? 可愛い私がわざわざ買って差し上げるんですから」

 礼儀正しく、控えめに頭を下げる曉梅。

「ああ。またな」

 無傷な左腕の肘から先を軽く振るサトラ。それを見て二人は病室を去って行った。

「あたしも帰ろっかな。誰かのせいで睡眠時間削られちゃったし。じゃ」

 当てつけのようにサトラのことをジロリ見て笑うソフィア。これまた当てつけのように欠伸をしながら、彼女も病室を出て行き、バタンとドアが閉められた。

「……ああは言っているが、ソフィアも心配しているんだ。あまり無茶なことはするな」
「……了解」

 ジゼルのフォローに、少し反省するようにゆっくり頷く。ソフィアがいつも眠たげなのは、局員たちの健康状態を保つため、夜遅くまで働いているせいなのだ。今更ながら、わざと腕を落として心配をかけさせてしまったことが申し訳ないと思った。

「しかし、取れた右腕を隠し持ち、左腕のダミーにするとは。よく機転が利いたな」

 サトラの魔女を欺いた方法を褒め、感心したようにジゼルが頷いた。
 もげ落ちた右腕を拾い、ローブの左袖の中に引っ込めた左腕で持ち、関節を魔力で動かして普通の腕として扱って、右腕と左腕を誤認させる。それがサトラの用いた策だった。
 指の付き方から、静止状態であれば簡単に見破られてしまいそうな策だったが、動きの中であり、魔力光を纏わせてカモフラージュしていたので、頭に血の上った魔女は最後まで気がつくことが出来なかった。

「わざわざ傷口から魔力を流し込んでんのはわかってましたからね。だったら、身体と繋がってなきゃ意味ないんじゃねぇかなって」
「もしその推測が違ったらどうするつもりだった?」
「どうするもこうするもないですよ。違ったら身体を乗っ取られるだけですから。……気には食わねぇけど、あとはあのギャルが上手くやったんじゃないですかね」

 向こう見ずで投げやりなサトラの答え。実際に口に出したりはしないものの、サトラはリディアーヌのことを信頼していた。正確にはリディアーヌだけではなく、曉梅、ジゼル、ソフィア、全ての局員をサトラは信じていた。自分の仕事をこなすプロの集団だと。
 そんなサトラの言葉を、ジゼルは少し呆れたかのように鼻で笑った。

「……私もデスクに戻るとするか。まだ仕事は残っているからな」
「お疲れ様です」
「全くだ。お前が魔女を叩きのめす映像がネット配信で流されていたらしくてな。ただでさえ後処理に忙しいというのに、児童福祉団体からの抗議に対応しなければならん」
「う……すみませんでした」

 今の時代、携帯電話さえあれば誰でもたったの一分でストリーミング放送を始めることが出来る。今回の老人介護施設立て籠もり事件も、近くのビルにいた野次馬によってしっかり放送。映像だけで判断すれば、サトラが子供をぶっ飛ばしているようにしか見えなかった。

「なに、気にするな。あれが魔女であったことは向こうもわかっているはずだ。所詮、ポーズとして言ってきているに過ぎん。……だが、貯水タンク破壊した件についてだが、あれは擁護出来ん。これについてはお前たちに始末書を書いてもらう」
「え? いや、あれは、突撃のための必要経費だったというか、その……」

 想定していなかった言葉で盛大に焦る。あれは仕方のないことだった。あれはリディアーヌが勝手にやったことで貯水タンクを狙えなんて一言も言っていない。始末書という忌まわしき罰則を避るためにサトラは言い訳を試みる。が、無言&無表情で見つめたままのジゼルの目が、逃れることは出来ないと残酷に告げていた。

「……了解」

 プレッシャーに耐えきれず、サトラがあきらめの声を漏らすと、

「ではな。報告は以上だ」

 もう用はないとばかりにジゼルは背を向け、ドアの方へと歩み始めた。

 ――休みは潰れるわ、始末書だわ、最悪過ぎんだろ……。

 自分の不幸を呪うかのように大きくため息をつく。こんなことになるなら、もっとあのクソガキのケツでもぶっ叩いておくんだったと軽く後悔した。

「サト」
「ん?」

 不意に愛称で呼ばれ、そちらを向く。

「また、普通の人間に近いづいたな」

 ドアノブに手をかけながら、微笑むジゼル。その表情は普段の鋼鉄さを感じさせないほど人間味にあふれ、悪戯っけに満ちた笑みだった。

「ジゼル……」

 ジゼルにつられるようにサトラ役職ではなく名前を漏らした。
 自分をここまで導いてくれた[あの人]の名前を。

「……嫌みかよ。なくなった腕が元通りになる人間が、どこにいるってんだ」

 悪態をつきながら、サトラも笑った。








――――――――――――――――――――




 同刻。
 明かり一つない真っ暗闇の中に二人の少女がいた。
 いくら目を細めて近づいてもお互いの輪郭すらわからないほど、部屋の中は暗黒に満たされていた。それでも人間ではない二人には、お互いがどこにいるのかどころか、お互いがどんな格好で何を見ているのかすら把握出来た。

「……やはり、次はあの子たちで決まりかな」

 目を閉じて椅子に深く腰掛けた少女が顎に右手を当てながら満足げに漏らした。

「あの子、たち……? サジェス。今度は、何?」

 床に腰を下ろし膝を抱えていた少女が顔を上げると、リン、と鈴の音が響いた。

「前から目はつけていたのだけれどね。オルレアン特別治安維持局にいる子たちの話だよ」
「私は、知らない。わからない」
「僕がわざわざ会わせないようにしているからさ。君の代わりはどこにもいないからね」
「私が、危険?」
「万が一への備えだよ。つまり、価値ある。君にはね」
「それなら、いい」

 満足そうに少女が頷く。動きに合わせて鈴が小さく歌った。抑揚のない少女の声に代わり、鈴がその役目を果たしていた。あまりにも無垢で無警戒な反応に、サジェスと呼ばれた少女はクツクツと喉を鳴らした。

「以前から目はつけていたのだけれどね。サトラ君には」
「どんな、人?」
「ぶっきらぼうで口が悪くて往生際も悪い子だよ。おまけに魔女としては不完全。魅力的だろう?」
「……わからない」

 少女が首を横に振り、リンリン、と鈴が鳴ると、サジェスはだろうねと頷いた。

「確かに君好みではないかな。君なら……相棒の子を気に入るかもしれないね」
「いい子?」
「とびっきりにね。明るくて思いやりのある子さ。きっといい友たちになれるよ。君となら」
「私も、嬉しい」

 心から嬉しそうにゆっくりと頷き、少女の鈴は微かな音を発した。

「……楽しい?」

 闇の中、サジェスの横顔をジッと見つめ少女が尋ねる。サジェスの口角は確かに上がり、表情は未来への期待で満たされていた。

「楽しみなのさ。突如現れた魔女たちから膨大な資源を得ながらも、彼女たちを敵視するこの世界の人間たち。魔法という巨大な力を持ちながらも、何故かこの世界を侵略しようとしない向こうの世界の魔女たち。そして、両者の接触によって被害者になり、生きるために加害者となることを強いられる不認魔女たち。……様々な思惑が錯綜するこの時代をあの子たちはどう生き抜くのか。想像するだけで涎が止まらなくなりそうだ」
「誰が、正しい? 人間? 魔女? 不認魔女? サジェスなら、わかるはず。何も、かも」

 少女の質問が意外だったのか、サジェスは閉じていた両目のうち右目だけを開いて少女の方を見やった。

「知りたいのかい?」

 意外そうにサジェスが尋ねると、リンリン、と鈴の音が二回。

「欲しいのは、友たち」
「だろうね。実に君らしい。君にとってはそれが正解さ。みんなが君の友たちになれたら幸せになれるのにね」
「私も、幸せ」

 サジェスの言葉は皮肉ではなく、少女の満面笑みも嘘偽りには見えない。

「そろそろ行こうか。僕たちを呼んでいる」

 残っていた左目も開いて椅子から立ち、サジェスは床の上で膝を抱える少女に右手を差し伸ばした。

「これから、始まる?」

 差し伸ばされた手を握り、立ち上がりながら少女が尋ねる。

「始まる? 始まりはとっくの昔さ」

 サジェスは何を言っているんだい?とばかりに首を捻った。

「そう、魔女が逃げていった六百年以上前にね」

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