ある日の放課後。
「え? リンさんてO型なんですか?」
「そうですけど?」
「僕もO型です」
「Oh! レミィもO型ヨー」
「む? わたしもO型だ」
「ハルナさんたちがO型ということは知っていましたが、まさかリンさんもO型だとは……」
 UNOをしながら話に花を咲かせていると、
「すごいですね! 何かブラジルみたいですし!」
 リンさんがドロー2のカードを出しながら、ウンウンと頷いた。
「……え?」
 思わず開いた口が塞がらなくなる。それは僕だけではなく、ハルナさんとレミィも同じようで。顔を見合わせた僕たちはおもむろに立ち上がり、リンさんから見えないようにソファーの裏側にしゃがみ込んだ。
 緊急会議が開かれた理由はリンさんがドロー2のカードを出したのが五回目だからではない。おかげで次の順番である僕の手札は苦笑いしてしまう量になっているけれども。出来ればそっちについても会議したいけれども。
「……ブラジルって言ったよな……?」
 疑い深そうに小声でハルナさんが尋ねる。
「レミィにはそう聞こえたネー……」
「僕も同じく……」
 リンさんには聞こえないようにみんな小声で。
 どうして血液型の話をしていたのにリンさんはブラジルみたいって言ったのだろうか。理由は皆目見当がつかない。かといって、本人に尋ねて気を悪くされたら困る。何だかんだで僕たち三人は、新入部員で純真無垢な傾向のあるリンさんを可愛がっていた。
「おい、アキラ。ブラジルみたいってどういう意味だ……?」
「僕に聞かれてもわかるわけないでしょう……」
「もしかしたらメイビー聞き間違いかもネー……」
「三人同時に聞き間違いは流石にないでしょう……」
「ならばリンの言い間違いかもしれぬ……」
 ハルナさんが目配らせをし、頷き合ってからみんな元の席に戻る。ひとまず言ったのか言ってないのか、真偽を確かめる為に。
「……へ、へー。そうなんですか。みんなO型とは奇遇ですね」
「ミ、ミラクルネー! これも何かの僥倖ヨー!」
「よ、四人中四人がO型とはな。偶然にしても面白い」
 僕たちがどこか白々しい会話を交わすと、
「ですねー。ブラジルみたいです」
 やっぱりリンさんはブラジルって言った。間違いない。
 ソファーの裏側に集まり、僕たち三人の緊急会議がまた始まる。
「……言ったよな……?」
「Yesネー……」
「完全に言っちゃってますね……」
 三人全員が聞いているので聞き間違いではない。二回連続で言ってるから言い間違いでもない。そもそもブラジルと何を言い間違えるのか。似たような名前の野球選手が獅子のチームと虎のチームにいたことがあるけど、まさかそんな。
「だから、どういう意味なんだアキラ……?」
「だから僕に聞かれても困りますって……」
「うーん……カーニバルてこと……?」
「……O型の人は陽気な人が多いんでしょうかね……」
「わかった。Oの字がサッカーボールみたいだってことだ……サッカーの母国だしな……」
「何のボールにも見えませんか、それ……? あと、サッカーの母国はイギリスです……」
 三人がそれぞれ学説を提唱するも、納得のいく答えを得ることはどうしても出来なかった。
「何こそこそ話してるんですか?」
 いつの間に。僕たちの頭の上には、ソファーの上から覗き込むリンさんの顔があった。
「む? 気のせいだ、気のせい」
「どう考えても不自然ですし」
 疑うような目を向けられる。こうなってしまったら仕方がない。
「ああ、そんなことですか」
 これこれこういうことで会議をしていたのだと説明したところ、リンさんは笑ってくれた。これなら最初っから本人に尋ねた方がよかったかもしれない。
「純粋なブラジル人てO型しかいないそうなんですよ」
 ……へー。そうなんだ……。ブラジル人にはO型しかいないんですね……
「ホント? 初耳ヨー」
「梅毒でO型以外全滅してしまったとか」
 リンさんの言葉に僕とレミィは内心苦笑いで頷き、
「ふーん……で?」
 ハルナさんが全員の気持ちを代弁してくれた。