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『SSクラ部へようこそ』① 『SSクラ部へようこそ』② 『SSクラ部へようこそ』③
『SSクラ部へようこそ』④ 『SSクラ部へようこそ』⑤ 『SSクラ部へようこそ』⑥
『SSクラ部へようこそ』⑦ 『SSクラ部へようこそ』⑧ 『SSクラ部へようこそ』⑨
『SSクラ部へようこそ』⑩ 『SSクラ部へようこそ』⑪ 『SSクラ部へようこそ』⑫
『SSクラ部へようこそ』⑬ 『SSクラ部へようこそ』⑭ 『SSクラ部へようこそ』⑮
『SSクラ部へようこそ』⑯ 『SSクラ部へようこそ』⑰
・天然かピュアか
ある日の放課後。
「おい、貴様ら! 間違い探しをするぞ!」
部室にやってくるなりハルナさんは突拍子もない発言をし、接客の練習をしていた僕たち三人に水を打ったような沈黙が広がった。
「……アキラ先輩。一つ、間違いを見つけました」
「……何でしょう?」
「唐突に間違い探しを始めるなんて間違ってますし」
「ハルルが唐突なのはむしろ正解ヨー 窓から槍の投げやりネー」
突拍子がないのがハルナさんのリズムだ。転調につぐ転調という一本拍子。
「ええい、聞こえておるぞ! このうつけが! 部長がやると言ったらやるぞ!」
「仕方がないですね」
断るのも面倒なので仕方なしに付き合う。幸いなことに、飲み込みの早いリンさんの教育は一段落ついたところだった。
「よし。では、リン。部室から出ろ」
「え?」
突然のことにリンさんは目を丸くした。
「え?ではなく、解答者が部室にいては間違いを作れないではないか」
「あ……自分が探す役なんですね」
「新入部員の通過儀礼みたいなものだからな」
「そうなんですか? そんなの聞いてないですし」
「……大丈夫です。僕たちも初耳ですから」
嘘を嘘と見抜ききれないリンさんに真実を述べる。ハルナさんは面白くなさそうに舌打ちをした。女の子なのに。
解答者に任命されたリンさんは納得のいっていない様子だったけど、素直に部室から出る。ハルナさんは一人、ワクワクを抑えきれずにはにかんだ。
「よし! じゃ、一人一つな!」
「僕たちもやらなきゃだめなんでしょうか?」
「当たり前だろ! 後輩との大事なコミュニケーションだ」
「Oh! 異文化コミュニケーションネー!」
確かに後輩とのふれあいは大事かもしれないけれども……。けれども。
というわけで。間違い探し大会が始まった。
「私はいつもと反対の髪を結ぼうか」
「じゃ、レミィはカラコン外すヨー」
「……僕はスーツから学校の制服に着替えましょうか。別に間違ってはいないんですけど」
そう言って、ハルナさんは左にあるテールを解いて、新たに右に尻尾を作り。
レミィは青いカラーコンタクトを外し、真っ黒な瞳に変わり。
僕はスーツから、長いスカートの制服へ着替える。つい二十分前まで着ていたからか生温かく、自分の熱だというのに変な気がした。
「……む? 思ったんだが、三つって少なくないか?」
「……確かにそうかもしれませんね」
一人一つずつの計三つではあっという間に終わってしまう可能性もある。特に僕とハルナさんの場合はわかりやすい間違いなので、下手したら十秒以内に全問正解の可能性も。せっかくやるのだから、それはちょっと面白みがない。わざわざ着替え直したので。
「……閃いた!」
「何でしょう?」
「間違いは四つと出題するが、本当は三つしか間違いがない!」
「随分とわかりにくいですね」
果たしてそれが問題として正しいのか疑問ではあるけど、
「もういいですか?」
リンさんは扉から顔を覗かせてしまい、
「よかろう」
ハルナさんがOKを出してしまった。よかろうって……一体どうするつもりなのだろう。
「さぁ、リンよ! クラ部名物、新入生歓迎間違い探しを突破してみせよ!」
「いつから名物になったんですか……?」
「やかましい。どんな名物にも始まりはあるということだ。間違いは全部で四つ。見事看破してみせるのだ」
全部で四つ。どうやら本当にこれでいくらしい。間違いが三つしかないのが間違い。これに気づくにはよほど頭の切れる人ではないと。少なくともハルナさんは気づかないと思う。いや、逆に突拍子のない解答をして当たる可能性もなくはない。
「四つですか……もういいですか?」
「うむ」
こうして間違い探し大会解答編が始まった。
「いきますよ? まず、アキラ先輩がスカート姿なんて確実に間違ってますし」
「言い方が少し引っかかりますが……正解です」
「あと、ハルナ先輩のテールが左右反対です」
「うむ。あと二つだ」
ここまでは予想通り。僕とハルナさんの間違いは瞬殺され、矛先は美味しいそうにマカロンを食べるレミィに向いた。僕のスカート姿はそんなにおかしいのかな……。
瞳というとてもわかりにくい部位なので、自然とリンさんにマジマジ見つめられるが、レミィは嬉しそうに笑っていた。恥ずかしがるレミィを見たことはない。
「……あ! レミィ先輩の目の色が違います」
「Yes! レミィ、お菓子大好きヨー」
「そういう意味じゃないですし……」
ものの数分で見える間違いが消え、残すは間違いがないという邪道な間違いを残すのみ。
ところが、懸念していた通り、リンさんが答えに辿り着くことはなく。ソファーを調べたり、シャンデリアを見上げたり、冷蔵庫の中を確認したり……いたずらに時間は過ぎていき、ハルナさんは焦れったそうに唇を噛んだ。面倒くさい出題をした張本人だと言うのに。
「さーて、そろそろタイムアップだな」
「時間制限があるんですか!?」
「人生はタイムアップの連続だからな」
「そんな人生イヤすぎますし!」
とはいえ。ただ解答を待つというのもなかなか辛い。おまけに、リンさんは間違えることを恐れているのか、なかなか答えを言わないので、正直な話タイムアップを設けるのは朗報だった。
「よし。あと十秒だ」
「え? え? え?」
非常な通告受け、リンさんが挙動不審に前後左右を見渡す。それでも目に見える間違いはもうないので、絶対に見つかるはずがなく、次第にリンさんの目は潤んでいった。
「ひょっとして自分が間違いなんですか?」
切羽詰まってしまったからか、ハルナさんばりに突拍子もない発言をし、
「間違いだったら、自分は誰なんですか!?」
リンさんは自分の発言が怖くなって泣き出してしまった。
「わー! すまん嘘! わたしが間違っていた!」
予想外の事態に主犯であるハルナさんが取り乱しながら謝るも、とりつく島はない。
「ハルナ先輩がおかしい人だってことはずっと前から知ってますし!」
泣きながら断言する。ハルナさんが間違っているのは誰もが知る事実だった。