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『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』①
 
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』②
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『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』④
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑤
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑥
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑦
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑧
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑨
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑩
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?2』⑪



・好きなタイプ


『清恵、何か適当にメール読んで』
『わかりました。えー……ジョンからの手紙さんからのメールです』
『あれ? この間も読まなかったっけ? モテ期のやつでしょ?』
『そうだったかもしれません。とりあえず読みますね』
『あいよ』
『己己己さん、清恵さん、こんばんは。先日はメールを読んでいただきありがとうございました。ラジオで自分の名前が呼ばれ、とても興奮したのですが、結局相談には乗ってもらえずじまいで、少し複雑な気持ちです。なので、改めてモテ期の僕の相談に乗ってもらえないかと思い、メール差し上げました……とのことです』
『ほら。やっぱり、モテ期のやつじゃん』
『そうでしたね』
 相変わらず咏ノ原さんは淡々としていたが、姉御の声に覇気はなかった。どこか落胆しているというか、興味が薄そうというか。ようするにつまらなそうだった。
 まぁ、私もこのメールあんまり面白くなりそうな気がしないけど。
『……清恵はさ、恋バナって好き?』
『恋バナ……?』
『いわゆる恋愛の話』
『特に好みではないです』
『学校の友達とかとしないの?』
『私はしないです。聞くことは多々ありますが』
『相変わらず冷めてるねぇ。あんたのことだから初恋もまだだったりして。好きなタイプとかないの?』
『好きなタイプですか?』
『そう。理想のタイプでもいいけど。背は高い方がいいとかさ』
『そうですね……背は私より高い方がいいと思います。私があまり大きい方ではないので。高いところに手が届く方がいれば便利です』
『随分と打算的な理想だな……まぁ、いいや。そんな感じで今日はドンドン理想のタイプを言ってみっか』
『わかりました』
 今日もまた二人にメールを無視される、憐れなジョンからの手紙さん。でも、私もメールの内容より咏ノ原さんの話の方が気になるかな。
『私を引っ張ってくれるような方もいいです。出かける場所や予定など、余計なことを考えずに済みますから』
『なるほど』
『髪は長い方がいいですね。風になびく姿は風情があって素敵だと思うので』
『へー、そうなんだ』
『あと、歌が上手い方がいいです。音楽は素敵なものですから』
『……結構注文が多いんだな』
『そうですか?』
『んー……まぁ、いいか。他には?』
『歌もそうですが、やはり声はいい声がいいです』
『声優だしな、あたしら』
『はい』
『……背が高くて、清恵のことを引っ張ってくれて、髪が長くて、歌が上手くて、声がいい人が理想か……聞いといてなんだけど、いるか? そんなやつ』
『います。きっと。ついでに言わせていただくと、親分肌な人です』
『親分肌ねぇ……うーん、あたしの知り合いには……』
 そう言って悩ましい吐息を漏らしたと思った、次の瞬間。
『……あ!?』
 突然、姉御は大きな声を出して驚いた。
『どうかしたんです? 急に大きな声を出して』
『あ、いや、え、あ、ううん。全然? 大丈夫、大丈夫』
 平気を装うとするもまったく装えていない。姉御の落ち着きのない声には、照れや恥ずかしさに似たものを感じる。
『どう見ても大丈夫には思えないのですが……わかりました』
『……なるほどねぇ。何だよ、そういうことかよ』
 小さな姉御のつぶやき声は、どこをどう聞いてもニヤニヤを隠せていない。
 ……どういうことなんだろ。もしかして思い当たる人がいるのかな? やっぱり声優さん? 私もそれなりに声優さんには詳しいから、ちょっと推理すればわかるかも。
 えーと、咏ノ原さんの理想は、背が高くて、自分を引っ張ってくれて、髪は長くて、歌が上手くて、声もよくて、親分肌の人か……。
 ……ん? あれ?
 これって……全部当てはまってるよね? 姉御。
 背丈はモデルさんみたいだし、咏ノ原さんのことを引っ張ってるし、長いポニーテールがトレードマークだし、歌でドーム埋めちゃうし、実力派声優としても名高いし、おまけに姉御と呼ばれるくらい親分気質だし。
 ……もしかして、咏ノ原さんの理想のタイプって姉御!? だから、姉御はこんなに照れてる!?
 いや、でもまさか、そうだとしたら普通姉御の目の前で言えないよね? 恥ずかしくて。……あ、咏ノ原さんは普通の人じゃなかった……。
『何がそういうことなのかはわかりませんが、続けますね』
『え!? まだ続けるの?』
『はい。己己己さんが言えと仰ったので』
『いや、それはそうなんだけどさ……いやー、まいったなぁ、これが』
『……?』
 デレデレしっぱなしな姉御の声に、咏ノ原さんは不思議そうな吐息を漏らす。
『あたしは、ほら、いいんだけどさ、あんまり長々やると、何だかノロケだと思われそうだしさぁ』
『ノロケ……? よくわかりませんが、そう仰るのなら、最後にずばりで言います』
『ずばりで言っちゃうの!? ダメだってそれは流石に。ファンの子とか怒るから、絶対』
『大丈夫です、ダメだったら編集すればいいだけですし』
『いやー、でもさー、みんなに悪いじゃん? 何か。あたしが何かしたわけではないけど、さ。ほら』
 ハッキリとしない姉御の態度。みんなに悪いと言いながら、その声は咏ノ原さんの言葉を求めていた。
『……? では、やめておきましょう』
『あ、いや、でも、やっぱり言ってみたら? 清恵の言う通り編集すればいいし。うん。べ、別にあたしが聞きたいわけではないけど』
『己己己さんが聞きたくないのなら、別の話題にしましょうか?』
『え、あ、ちが、そうじゃなくて、その、何ていうの? ……いーじゃん、もう言っちゃえよ!』
 恥ずかしさを開き直るように姉御が大声で命じる。
『……わかりました。私の理想は』
『理想は!?』
『ずばり』
『ずばり!?』
 溜めに溜めた咏ノ原さんの理想は、
『……私のお父さんみたいな人です』
 姉御や多くのリスナーの期待を裏切るものだった。
『……え?』
 唖然とした姉御の声から察するに、多分目は点になっている。
『き、清恵の……お父さん?』
『はい。それが何か?』
『へ? べ、別に? 全然? ああ、お父さんね、お父さん。わかってたわかってた! だと思ってた……はぁーあ……』
 やけっぱちな返事に続いて、大きなため息が聞こえた。姉御ってば、そんなにショックなのかな? スカされたことが。まぁ、咏ノ原さんらしいといえばらしいけど。
『……? ……あ。己己己さんのことも好きですよ?』
『だーかーらー!』
 絶叫悶絶。完全に姉御は女子高生に弄ばれていた。
 咏ノ原さんに自覚がなさそうなのが恐ろしい……。