前回分にはこちらから。
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?3』⑤
・ドーナツ
意外な一面についての話は続く。
『……清恵から見て、何かある? あたし。意外な一面』
『己己己さんの意外な一面……』
『あれね、面白くなかったらステッカーなしね』
『……なるほど』
そう言って軽く押し黙る咏ノ原さん。自分の話が面白くなかったら、リスナーへのステッカープレゼントがなくなってしまう。咏ノ原さんのことなので、そんなことに責任感は感じてなさそうだけど。多分、姉御の行いを色々と頭の中で思い出しているのだろう。
姉御の意外な一面……。何かあるかなぁ。
『……あ』
私も姉御の意外な一面について考えていると、咏ノ原さんは何か気づいたのか声を漏らし、微笑ましそうにクスクスと笑った。
『何々? 何、急に笑ってんの?』
『いえ……意外と可愛らしい人だなと思いまして』
『はぁ!? え、何、意味わかんないんだけど』
不意を突かれ、困惑する姉御。姉御は綺麗な人だけど、確かに可愛らしさとは無縁な人な気がする。
『今日、お昼ご一緒したじゃないですか。ドーナツを』
『うん。……って、ドーナツ食べたから可愛らしいとか言わないよな?』
『違いますよ。そこのドーナツ屋さんはかなり評判のお店で、バイキング形式じゃなくて、注文したものを店員さんに取っていただくのですが……己己己さん、何を頼んだか覚えてますか?』
何を頼んだかが大事なのかな? ……話は一体何処に辿り着くのだろう。
『えーと……確か……オールド、』
『オールドパッションオールドパッション言ってましたけど、あれ、オールドファッションですからね?』
『え……?』
目が点になっていそうな、素っ頓狂な声が上がる。
……オールドファッションて、あれだよね。ちょっと割れ目の入っているサクッとした奴。最近では何処のコンビニでも売ってて、私も見かけるとついつい買っちゃうんだよねぇ。まさか姉御、あんな有名なものをずっと間違えて……。
『う、嘘でしょ?』
『嘘をついてどうするんですか。伝統的なスタイルのものだからオールドファッションて言うんですよ』
『……だから、あのとき清恵も店員さんもクスクス笑ってたのか』
『はい』
『あんたさぁ……』
笑ってないでそのときに教えてくれよとばかりにため息をつく姉御。
だが、咏ノ原さんの話はここで終わらなかった。
『……ちなみにフレンチクーラーじゃなくてフレンチクルーラーですからね?』
『まじで!?』
あ、姉御……。