十千しゃなお 電子書籍 オススメ

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カテゴリ: とのラジ!?連載


「おいっす」

 私の顔を確認するなり、顔の高さに右手を上げる姉御。

「久しぶり! 姉御!」

 私も同じように右手を上げて、パチンといい音を立ててハイタッチをすると、そのまま二人で握手を交わした。うん、久しぶりだけど姉御の手の感触だ。

「ほんと久しぶりだねー。この間のインストアライブいなかっただろ?」
「だ、だってチケット取れなかったんだもん。でもCDはちゃんと買ったよ?」
「お、偉い偉い」

 そう言って空いている左手で私の頭をワシャワシャと撫でる。
 知らない人が私と姉御のやり取りを見たらびっくりするかもしれないけど、顔なじみのファンとは大体いつもこんな感じ。フランクに接し、こちらがフランクに接することを好む人なのだ、姉御は。

「静ちゃん、もう二年生だっけ?」
「違うよ。四月に三年生になったばっかだよ」
「あ、そっかそっか。どう? 忙しい?」
「んー、今のところ変わんないけど、就活のこと考えるとちょっと憂鬱……」
「あー、なるほど。就活ねぇ……うーん、アドバイスしようにも経験ないからなぁ、あたし」
「いいなぁ……。そうだ、もし就活失敗したら姉御のマネージャーに雇ってよ」
「ばーか。やる前から失敗すること考えるやつがいるかよ」

 いてっ。撫でていた左手でペチンと頭を叩かれてしまった。うー、冗談だよ、冗談。

「……で? どうよ、最近は」
「最近? うーん、最近、ってわけじゃないけど、この間ドームで見たよ。咏ノ原さんのライブ」

 私の中で一番新しい大きな出来事について答えると、

「え、マジで? 実はあたし行ってないんだよね。仕事と被っててさ」

 姉御は残念さと少しの悔しさが入り交じったような声で愚痴っぽく漏らした。

「すっごかったよ咏ノ原さん。可愛かったし格好良かったし歌上手かったしダンスはキレキレだったし」
「マジかー……」
「あとね、姉御のことちょっと喋ってたよ」
「あたしのこと?」
「うん。[静かな背中に寄り添って]を歌う前にね、「この曲はベッドで眠る己己己さんの背中を眺めながら作った曲です」って」
「ば!? 馬鹿じゃないのあいつ!? そんなん言ったら同棲してるように聞こえるだろうが」
「え……? してないの?」
「してねぇよ! 週3ぐらいしかあたしん家いないっての」

 そう姉御は声を荒らげたが、それはそうでどうなんだろう……。同棲っていうか通い妻っていうか……。というか咏ノ原さんて佐原さん家のご飯も作ってたりするんだよね? 一体どんなスケジュールで生きてるんだろう。咏ノ原さんは相変わらず謎が深い。

「いやー、でも、今日の握手会来れて本当によかったぁ。久しぶりに姉御と話せたのも嬉しいけど、実は初めてだったんだ。咏ノ原さん達と話すの」
「あ、そうだったの? ふーん……どうだった?」
「んーと、佐原さんはツンツンで可愛かったし、本当に胸が大きくてびっくりした」
「それ、あの子が聞いたらまたツンツンしちゃうから内緒ね」
「愛李さんは……すごかった」
「ああ、うん。だろうね……」

 私に釣られるように姉御も苦笑いを浮かべる。愛李さんの超弩級な天真爛漫さは、とにかくすごいとしか言いようがないのだ。他人の為に作っているキャラなのに他人のことを全く気にしていない感じが……一言で言ってしまえば頭がおかしいのだ。

「清恵は?」
「咏ノ原さんは……目が超綺麗だった」
「目?」
「うん。すごい澄んでて、本当に純粋なんだなって」
「純粋過ぎて危うくもあるけどな。……ま、けど、いい子だよ。あの子は」

 僅かに頷く姉御。ずっと二人でラジオをやってきた姉御の頷く姿には、確かな重みがある。

「瀬名ちゃんもいい子だし、愛李さんもいい……いい子だし、いい面子でラジオやれてるなって思うよほんと」
「自慢の家族って感じ?」
「ああ。静ちゃんもね」
「私も?」

 一体どういうことなのだろう。
 唐突な言葉の意味が知りたくて尋ねる。

「静ちゃん達リスナーも含めてこのラジオの家族さ。……まったく、どいつこいつも手のかかりやがるとんだ大家族だよ」

 姉御は私の目を見て、だろう?と確認するように言った。
 ……家族。
 ……でも、そうだよね。私達リスナーからのメールも声春ラジオを構成する要素の一つだもん。

「……姉御!」
「うん?」

 私達リスナーのことを家族って呼んでくれたのが嬉しくて、

「これからも沢山メール書くからね!」

 感謝の意を込めてそう宣言すると、

「あいあい。期待しないで待ってるよ」

 私達家族の長姉はやれやれと返事をしながらも、気っぷのいい笑顔で答えてくれた。


「……? どうしたんです? 顔が赤いですが」

 長机を挟んで私の正面に立った咏ノ原さんは、私のことを見つめたまま不思議そうに首を傾げた。どうやら私の顔にはまだ赤みが残っているようだ。さっき愛李さんに危うくキス、というか吸われるところだったからなぁ……右手にだけど。

「いや、ちょっと緊張しちゃって……」
「緊張……。早く感じますか?」
「え?」

 何が? 唐突な質問に戸惑うも、咏ノ原さんはずっと私のことを見つめていた。

「体感の話です。目に映るものの動きがいつもより早く感じれば、それは緊張の影響です」
「へぇ、そうなんですね」
「反対に遅く感じるのであれば、それは集中出来ている証拠です。いわゆるゾーンと呼ばれる現象ですね」
「へぇー」

 すらすらと出てくる豆知識。やっぱりこの人は頭がいいんだろうなって、素直に感心してしまう。……あまりに淡々としているから、優秀なナビロボットみたいな感じもちょっとするけど。

「あの、握手して下さい!」

 お願いしますと右手を差し出すと、

「はい」

 当然のように淡々と無駄のない動作で咏ノ原さんは私の手を握ってくれた。無機質な印象すら受ける咏ノ原さんの手は、氷のように冷たくはないものの、体温が低いせいか少しだけひんやりとしていた。

「あ、あの、」
「はい」
「いつも姉御とのラジオを楽しみにしてます!」
「そうですか。ありがとうございます」

 真っ直ぐ私を見つめたまま淡々とお礼を言う。極めて反応は薄く、まぁ当然ですよねと言わんばかりの態度だったが、それはそれは咏ノ原さんらしくて嬉しくもあったりで。
 というか、この人は本当に人の目を見る人なんだなってさっきからずっと感じていた。私が咏ノ原さんの前に立ってからというもの、彼女はずっと私の目を見つめ続けており、目を合わせていると、彼女の大きな瞳に吸い込まれていきそうな感覚に陥りそうになる。

「えっと、その……」

 高まる緊張で頭が真っ白になっていく。恐らく咏ノ原さんにとっては人と接する当たり前の態度なんだろうけど、こんな美少女に見つめられた経験のない私にはかなり威力がある攻撃だ。……いや、というか誰だってこんなことされたら言葉が詰まるに決まっている。だって、瞬きもほとんどせずに見つめてくるんだよ? あの汚れを知らなそうな純粋過ぎる目で。もし私が咏ノ原さんの同級生だったら「自分に気があるのかな……?」って勘違いしていたことだろう。
 そんな天性の魔性に顔を赤くしていると、

「……推測ですが、」

 咏ノ原さんの方から私に話しかけてくれた。もちろん一瞬も目を逸らすことなく。

「は、はい」
「サイレンスシズカさんですか?」

 え。
 唐突に出た私のラジオネームに呼吸も心臓も思考も止まる。え、何でどうして? びっくりし過ぎて、リアクションをとることすら出来なかった。

「……その反応を見るに正解ですね」

 戸惑う私に目を合わせたまま、僅かに頷く咏ノ原さん。

「な、何でわかったんですか?」
「メールの文章から感じる雰囲気とどこか似ているものがあったので」

 メールって……。そんなわかるものなのかな? 普通。

「いつもメールありがとうございます。毎回とても楽しみにしています」
「いえいえ! こっちの方こそありがとうございます!」
「本当はもう少しラジオの中で取り上げたいのですが、己己己さんからあまり同じ人のメールばかり読むなと言われているので」

 あー。言われてみれば声春ラジオって満遍なくメールを採用しているような気がする。年に二回も読まれれば多い部類に入るって感じだし。多分、姉御が同じ人ばかり読むなって言ってるのは、本当に沢山の人からメールが来てるからなんだろうなぁ。同じ人ばかりだとメールを送るモチベーションが低下しちゃうしね。

「ですが、私は好きです。あなたのメール。これからも頑張って下さい」
「……は、はい! 咏ノ原さんもお仕事頑張って下さい!」

 お互いの目を見つめたままエールを送り合う。咏ノ原さんの汚れの知らない目はどこまでも静かで澄んでいるけど、感動に打ち震える私の目は涙目になっているような気がした。
 ……好き、だって。信じられない……!
 決して嘘や方便を言わない咏ノ原さんの言葉は、私の胸の深い部分で心地よく響いた。


「ねぇねぇ。なったんを落とすなんて、もしかしてプレイボーイな感じぃ?」

 佐原さんとの握手タイムを終え、長机に沿って左に移動するなり天真爛漫な愛李さんに絡まられた。その顔は当然のようにニヤニヤとしていて、楽しそうで嬉しそうで幸せそうで、私のことをよくやったと褒めているようにも見える。

「プレイボーイって。私、ガールですよ?」
「もぅ、ダメだよん? らぶたんが紅一点でかわい過ぎるからってー☆ らぶたんにはダーリンていう素敵な旦那さんがいるんだから♪」

 イヤーンと両手で両頬を抑えながらクネクネと動く愛李さん。紅一点? ……紅一点? 言っている意味がよく考えなくてもわからないけど、それも仕方のないことだろう。人知を超えた存在が考えることなんて、私にはわかるはずがない! 愛李さんは色々と変なのだ。
 個性的過ぎるキャラクターは言うまでもなく変なので置いておくとして……例えば見た目。三十代後半に足を踏み入れているとは思えないくらい童顔で、女子大生も顔負けなくらい肌には張りがあるってところも変だけど、一番違和感があるのはその身長だ。アニメや漫画で天真爛漫なキャラクターっていうと何となく小っちゃい子のイメージがあるが、実は愛李さんて背が高い。姉御みたいに170オーバーってほどではないけど、165くらいはありそうだから女性としては充分高い方の部類に入る。
 反対にイメージと違って小さいのが、まだ僅かに頬が紅潮している佐原さんだ。実は四人のパーソナリティの中で一番背が低い……といっても、咏ノ原さんの方がちょっと大きいだけで、ぱっと見にはほとんど一緒なんだけどね。

「ねーえー? 早く触りっこしよーよぉー? お手々にぎにぎターイム☆」
「あ、はい。お願いします」

 触りっこ?と思いながら右手を差し出す。愛李さんはイメージに反した地味に大きな右手で私の手を強く握ってくれた。

「えへへへへー♪ 女の子☆ 女の子☆」
「わ、あの、え……!?」

 握手した手を愛李さんがぶんぶんと上下に振り回し、手首から先がガクガクッと持って行かれそうになる。そんな子供じみた握手をしながら目を細めて笑う愛李さんは、やっぱり天真爛漫な子供のように映った。これで三十六歳? 見た目からも元気さからも、とてもそうは思えない。

「わー、お肌スベスベのモッチモチさんだぁ♪」

 ひゃ!? 今度は握手をしたまま感触を楽しむかのように右手を揉み始め、左手で私の手の甲をさすり始める。くすぐったいっていうか、何か手の使い方がいやらしいっていうか……。うう、顔が熱い……。

「……ら、愛李さん? な、何してるんですか?」

 愛李さんからの刺激に変な声を上げないよう耐えながら尋ねる。

「えー? 若い子のエキスを吸ってるだけだよー?」
「吸ってるだけって……手からですか?」
「え? 口から吸っていいの? それじゃいただきまーす☆」

 え、あ、ちょ……!?
 徐に私の右手へと近づいてくる愛李さんの唇。本当に吸い付いてくるんじゃないかと思い、とっさに右手を引っ込めると、

「あーあ。残念♪」

 愛李さんは真っ白な歯を見せて笑い、

「何しているのかしら愛李は。最っ低」

 と隣の佐原さんは参加者と握手をしながら蔑むような目で愛李さんにトゲを放った。

「えー? らぶたんはー、なったんの仇をとっただけだよん?」
「私の仇……? ……ああ、この人が私のことをからかったから?」
「違う違う。らぶたんのおっぱいを触ったカ・タ・キ☆」
「誰も触られてないわよ!」

 突如始まった愛李さんのセクハラ劇場に、佐原さんと握手している人や私は完全に取り残されてしまったけど、ラジオでよく聞くやり取りが目の前で展開されていることに妙な感動を覚えた。
 ……やっぱり生ってすごい!

前回分にはこちらから
『わたしと!あなたの?声春ラジオ!?握手会編』①


・ツンツン女子高生の場合

 そんなこんなで始まった握手会。
 私の番は握手会が始まってから一時間ほどでやってきた。って言うと、そんなに待たされたの?って思う人もいるかもしれない。だけど、とってもとってもとっても緊張していた私にとっては本当にあっという間で、後ろを振り返って、自分の順番を待つ参加者の行列を見ると、これいつ終わるんだろう……?と不安になってしまう。……私は関係者でも何でもないんだけど

「……ちょっと」

 ステージの下に広がる人の海を眺めていると、背後から言葉の冷たいトゲがチクリと刺さった。

「何をしているのかしら。あなたの番だというのに」

 チクチクと刺さるトゲ。「あなたの番」という言葉で自分が何故ここにいるのかを思い出し、慌てて振り向く。長机を挟んだ私の正面には、仏頂面の佐原さんがいた。

「別にいいわ。どうせ私が目当てで来たわけではないんでしょう」
「そ、そんなんじゃ……」

 言い訳を試みるも、佐原さんの冷たい威圧感に気圧されて言葉が喉を通らない。うぅ、まさか年下の女の子にビビらされるなんて……。でも、佐原さんて本当に色々大人びてるよなぁ。顔つきもそうだけど、体つきなんて大人びてるというか大人顔負けって感じだし。……主に胸が。

「……ちょっと。そんなに胸ばかり見ないでくれる?」
「あ、ごごごごめんなさい!」
「まったく。鼻の下が伸びているわよ? 同じ女性だというのに馬鹿みたい……」

 グサッ。やれやれと呆れるように零れたため息がトゲとなって私の胸に突き刺さる。しょ、しょうがないじゃん! こんなに大きい胸、誰だって見るに決まってるもん!
 でも、ちょっと同情もしてしまう。僅かに疲れの見える表情から察するに、これまでの参加者にも同じように胸を眺められてきたのだろう。一時間以上も。最初は気恥ずかしさもあったかもしれないけど、今では恥ずかしさよりも呆れの方が強くなってしまうほどに。

「……ほら」

 素っ気なく右手を差し出す佐原さん。それは握手をする為の手。何だか事務的な動作に申し訳なさが少しこみあげてくる。多分、これは佐原さんにとって声優として行う初めての握手会だ。記念すべき初めての。それなのに不快な思いをさせてしまうなんて……。握手してもらう側の私がこんなこと願うのは欲張りだってわかるけど、佐原さんにも握手会を楽しんで欲しかった。
 一体どんな言葉をかければいいのだろうか。応援してますとか? 可愛いですねとか? ……ダメだ。多分、この一時間だけで飽きるほど言われてるだろうし、この後も言われ続けるに決まってるよね。

「……? 握手しないの?」
「し、します。させて下さい!」

 怪訝そうな冷たい瞳で見つめられてしまい、かける言葉も見つからないまま慌てて佐原さんへ右手を差し出す。すると、佐原さんは右手で私の右手を握り、空いている左手を私の右手の甲に重ね、両手で包み込むように握手してくれた。

 ……あ。

「あ、あの……」
「何かしら?」
「さ、佐原さんの手って暖かいんですね」

 何となく冷たそうって思っていた佐原さんの小さな手が、思いの外、どころか、しっかりと暖かかったことが以外で、特に深い考えもなしに口にすると、

「な、な、な、何馬鹿なこと言ってるのよ!?」

 彼女の綺麗な顔は耳から唇まで真っ赤になった。それこそ茹で蛸のように。丸く見開かれた目は涙で潤んでいるようにも見える。暖かいと感じたその手は熱いと感じるほどに火照り始めていた。
 ……おかしいな。私、変なこと何も言ってないような……。
 どうして佐原さんが恥ずかしがっているのかはわからないけど、

「……わかったわ。あなた、私をからかっているのね」

 そう言って真っ赤な顔をムッとさせる佐原さんの可愛らしい姿を見ると、それだけで今日の握手会に来てよかったとさえ思えた。
 ラジオでわかってたけどさ、やっぱり恥ずかしがる佐原さんは可愛いなぁ。



・イベント前記


 五月某日。
 声(せい)春(しゅん)ラジオが始まってから二年が経ったことを祝して、初めての握手会が開催されることになった。ファンが多い声優さんが集まっているので抽選制のイベントになったものの、私、木下静は何とか抽選の壁を突破し、握手会当日を迎えること出来た。
 至近距離で姉御達に会えるの楽しみだなぁ……。

 握手会の会場はかなり大きめのホールだったが、私が圧倒されたのは会場の広さではなく、そこに集まった人の多さだった。どう見ても四桁はおり、さっきからぎゅうぎゅう詰めで暑苦しい……。
 参加者が多ければ当然警備担当のスタッフも多い。誰かが飛び出したりしないようにか、待機する私達参加者を囲むように警備担当のスタッフが配置される厳戒態勢。
 そして人の壁の向こう。簡易ステージの上には安っぽい長机が置かれ、その向こう側にマイクを持った姉御達が立っていた。

「いやー、結構集まったねぇ。抽選で絞ってこれでしょ?」

 私達から見て左端に立ち、呆れたように白い歯を見せる姉御。見慣れたパンツルックのスーツ姿にトレードマークのポニーテール。その凜々しさには姉御と呼ばれるに相応しい格好良さがあった。

「三千人ほどいるそうですが、国民的なアイドルグループは一万人以上集めるそうなので、まだまだですね」

 姉御の右横には人の山を冷めた目で見下ろし、淡々と評価する咏ノ原さん。臙脂色のワンピースと、黒タイツに包まれる長い足。無機質さを感じさせるほどに白い肌。僅かに揺れる二本のお下げ髪がとってもキュートで、遠目から見るだけではラジオでの変人ぷりを微塵も感じさせない。

「みんなー! らぶたんのワンマンライブに来てくれてありがとー♪ いえーい☆」

 右から二番目。可愛らしい声を張り上げて、わけのわからない言葉で私達を盛り上げる愛(らぶ)李(り)さん。丸襟のカットソーにヒラヒラのフリルスカートで可愛らしさを演出しつつ、落ち着いたブラウンのジャケットで大人っぽさもアピールするカジュアルロリータスタイル。明るい色のツーサイドアップで髪型にも可愛らしさの隙はない。演者の中で最年長であるにも関わらず、愛李さんは誰よりも天真爛漫に振る舞っていた。

「何言っているのよ。歌の予定なんて入っていないし、何よりワンマンじゃないじゃない」

 そして右端。人格を疑うような冷たい目を愛李さんに向け、冷静なトゲを放つ佐原さん。黒いパーカーにプリーツスカートというラフな格好は、下校途中の女子高生を連想させる。ダボダボのパーカーの上からでも「ちょっと大き過ぎない……」と女の子の自信を失わせかねない確か過ぎる胸の膨らみ。サイドポニーで露わになった両耳にはピアス。その顔つきは自分よりも年下とは思えないほど大人びていて綺麗で、流石は女優さんだなぁと感動してしまう。
 四人とも系統は違うけど色々とハイレベルで、この人達とこれから握手するんだって思うと……同じ女の子なのにちょっと顔が赤くなるっていうか。

「さーて、それじゃ、ちゃっちゃと始めちゃいますか。こんだけの人数捌くの大変だしね」

 当然のように姉御が進行を始める。うわ、手汗がヤバくなってきたどうしよう!?

「はい。握手会は初めてなので、少し楽しみです」
「え? あ、そうなんだ。ちょっと意外だわ」

 咏ノ原さんの告白に参加者達から歓声が上がる。記念すべき初めての握手会かぁ……うう、手汗が収まらない。

「ですが、初めてではあるものの、ちゃんと練習はしてきたつもりなので大丈夫です」
「あー、そういえば言ってたね。初めてのことは必ず事前に練習するって」
「はい。予習は大事です」
「……けど、握手会の練習って何すんのさ」

 うーん、確かに。握手会の練習なんてちょっと思いつかない。スタッフさんが列の整理の練習をするとかならわかるけど……。

「練習の内容ですか? 一時間くらいずっとなっちゃんと向かい合って握手してました」
「ただの仲良しか!」

 咏ノ原さんと姉御の掛け合いに響く私達の笑い声。真面目な咏ノ原さんらしいと言えばらしいんだけど……。
 そんな咏ノ原さんと一時間も握手をしていたという佐原さんは真っ赤な顔で俯いており、天真爛漫に微笑む愛李さんに「仲良しさん☆」とからかわれ、恥ずかしさでプルプルと震えていた。どうやらラジオで感じていた通り、クールな現代っ子っぽい雰囲気に反して佐原さんは恥ずかしがり屋さんのようだ。
 ……いや、うん。二人で向かい合って一時間も握手し続けていたことを大勢の前で公言したにも関わらず、平気な顔をしている咏ノ原さんもおかしいよね絶対。というか、一時間も握りっぱなしって、それもう握手じゃなくてただ手を繋いでるだけなんじゃ……。

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